週刊M&Aバンカー第64号:伊藤忠食品による関西スーパーマーケットへの質問状に係る雑記

週刊M&Aバンカー
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普段は時事ネタには触れないのですが、伊藤忠食品による関西スーパーマーケット(以下、「関西スーパー」)への質問状は興味深かったのでとりあげてみます。

当職は完全なる部外者であり、本記事は一個人の呟きであって投資判断や議決権行使につき影響を与えることを意図したものではない旨申し添えます(要は、単なる感想文です)。

(参考情報)「株式会社関西スーパーマーケット」様へのご質問書送付について

(いつもの先輩・後輩の対話で進めていきます。文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。)

伊藤忠食品による関西スーパーマーケットへの質問状に係る雑記

刻々と動きのある関西スーパーとH2O傘下のスーパーの統合案件

◎先輩、関西スーパーの案件はいろんな動きがあって面白いですね。

◆◆そうだね、全部終わってみれば貴重なケーススタディになるんじゃないかな。

◎ええ。臨時株主総会に向けて予断を許さない状況みたいですけど、ここにきて伊藤忠食品が関西スーパーに質問状を送ってますね(プレスリリースとして広く開示)。

◆◆10/12のリリースだね。この質問を考えた人は”相当な人物”なんじゃないかなと推察するよ。

◎ですよね。質問状の前提として関西スーパーが9/24に開示した「理論価値」について改めて確認してみたいのですが。

関西スーパーのいう理論価値とは

◆◆経営統合後の理論価値という概念を対外的に公表したケースって僕の記憶では初めてなんじゃないかなと思うんだけども。9/24の関西スーパーのプレスリリースにおいて自社案の経営統合がなされた後の理論価値を公表し、対抗者(オーケー)の予定TOB価格2,250円よりも高いから是非賛同いただきたいと主張しているようだね。

(参考情報)エイチ・ツー・オー リテイリング グループとオーケー株式会社の 各提案に対する当社の見解について

◎そのようですね。また、10/15に関西スーパーが開示したFAQ(第2回)No.15においても目標株価に絡めて理論価値について触れています。

◆◆9/24のリリースのP.10に記載されているとおり、この理論価値というのは、

  • 関西スーパー
  • イズミヤ
  • 阪急オアシス

の統合予定3社が各社で作成した事業計画を単純合算したものをDCF法で分析したようだね。そして統合によるシナジー効果は含んでいないと。

◎ええ。その結果算出された理論価値が、以下になるってことでしたよね。これを見ると最大値は両社とも3,000円を超えていますが、最小値は特別委員会が起用したプルータスの方だけ2,250円を下回っていますね。

算定者 理論価値(1株あたりの価値)
アイ・アール・ジャパン
(関西スーパーが起用)
2,400 円~3,018 円
プルータス(特別委員会が起用) 1,787 円~3,128 円

◆◆そうなんだけども、9/24プレスでは「2,250円は当方サイドの算定した理論価値の下限付近であるとして、

本経営統合により当社の株主の皆様が享受しうる利益(本経営統合後の当社の株式価値) は、本非公開化取引(注:オーケーによるTOBからの一連の取引)により株主の皆様が享受しうる利益(本公開買付価格)と比較し、これを上回りうるものであると考えております。

と結論づけているね。

伊藤忠食品からの質問:反対株主の買取請求権

◎ええ。そしてここまでは珍しい話とはいえ、TOB価格と理論価値というApple to Appleの比較になっておらず煙に巻くような議論にも見えたんですけども、10/12の伊藤忠食品による質問状は痛烈でしたね。

◆◆さっきも述べたけど、この質問を読んだときに「そうきたか!」とびっくりしたからね。質問状は5つの質問から構成されていてその全部が非常に興味深いんだけども、今回は質問No.2にフォーカスしようか。

伊藤忠食品による質問No.2抜粋:
仮に第 1 号議案が臨時株主総会で承認された場合、株主総会の開催に先立って当該議案に反対する旨を貴社に事前に通知し、実際に株主総会において反対票を投じた株主は、株式交換に係る効力発生日の 20 日前から効力発生日の前日までに貴社に対して保有する株式の買取請求を行う権利があります。この場合、会社法の定めによれば原則として「公正な価格」での買取を請求できるとの理解ですが、公正な価格はオーケー株式会社様(以下、「オーケー様」といいます。)が公開買付価格として提案されている 2,250 円を下回ることはないという理解でよろしいでしょうか。

◎関西スーパーの進めている経営統合に反対して株式の買取請求権を行使したら、その買取価格は「理論価値」に近しい数値、すなわちオーケーの提案金額よりも高いですよねっていう念押しですね。

◆◆関西スーパー側は、自ら「理論価値」をいってしまっているわけだからそれを下回るなんて「ダブルスタンダード」はないですよねと確認したいのかな。

◎通常、上場会社は投資家から株価をつけられる存在であって、株価がいくらであるべきかは「述べる立場にない」と思うんですが、そこを述べてしまった弊害のようなものですかね。

◆◆うん、ちょっと脱線するけど自己株TOBが基本的に時価以下でなされることも「会社は株価を勝手につけるべきではない」という思想が根底にあると思うんだよね。

◎そこに踏み込むと大きな切り返しがあるかもしれないという事例になるのでしょうか。

◆◆うーん、どうだろう。現時点では関西スーパーからの回答はないんだけども、ここを単純に「Yes」とこたえてしまえば決議への反対株主を増やすことになりかねないよね。いずれにせよ、どのように回答を組み立てるのかは興味深い。

◎でも、反対が増えすぎて可決されなかったら当然買取請求権も発生しないんですよね。

◆◆まあ、そうなるね。

◎なんだか、ゲーム理論みたいな構図ですね。プレーヤーが多すぎてあれほど単純ではないですけども。引き続き注視していきます。

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