今日は、社内の人脈・ネットワークの重要性について考えてみようと思います。
特にM&AのFA(Financial Advisor)業務のようにチームで動くタイプの仕事の場合、実は社内人脈というのは相当に重要なのではないかというのが個人的な感覚です。
人間関係のゼロクリア
転職を経験したことがある人は分かると思いますが、転職による変化のうち、大きいもののひとつに、社内の人間関係のゼロクリアが挙げられます。転職後は、前職までの人間関係とは切り離された真っ新な人間関係を改めて構築していくことになります。
お前は誰だ?
転職直後の社内人脈ゼロクリアに関して個人的に思い出すのは、転職直後にとある名物上司から、
「お前は誰だ?」
と突然声をかけられたことです。
おそらくフロアの中で見たことがない顔がいたので声をかけてきたのだと思います。
事前に名物上司の噂について色々と別の上司から聞いていたので上手く対処できましたが、対応に失敗した別の人はその名物上司に詰められることもあったようです。
新しい案件を持ってきてくれるのは誰か?
FAの仕事で考えてみますと、新規のM&A案件のエグゼキューションを振ってくれるのは誰でしょうか。
アソシエイトクラスは上司・先輩から仕事をいかに振って頂けるかが重要
ディレクタークラスであれば直接クライアントから案件を頂くということもあろうかと思いますが、転職適齢期のアソシエイト前後の人々が直接外部から案件を取ってこれるということはほとんど考えにくいと思います。
そうなると、アソシエイトの人間に案件を振ってくれるのは社内のDやVP(要は上司・先輩)であるわけです。
M&Aアドバイザリーのチームに所属するということは、基本的に案件数をこなしてなんぼの世界です(もっといえば、まともな案件に関与したいところですが、それは贅沢な話です)。なので、上司・先輩の信頼を得て、
「あいつは良い動きをしてくれるから、案件に入れよう」
と思っていただけることが重要です。
転職直後の新入りはとりあえず実力を試される
転職直後の暇そうなアソシエイトが居たとしても、D/VPの立場から考えてみると海のものとも山のものとも分からない人物だけに案件を任せるのは怖いので、難しい案件であればあるほどそのような新人に全ては任せない傾向にあるのではないかと思います。
すなわち、その新入りの方のタイトルがアソシエイトだったとしても、別のアソシエイトも入れ、新入りアソシエイトには実質アナリストワークをしてもらって、仕事を任せて大丈夫かどうかをチェックすることが多いのではないでしょうか。
そして、何度か繰り返されるそういった下働きで良い働きができれば
(うん、この人なら大丈夫そうだ)
と思って頂けて、次の案件からはアソシエイトとして案件に関与できるようになるはずです。
他部署の適切な人物の顔が思い浮かぶか?
同じ組織で長く働くメリット
ずっと同じ組織に属するメリットとしては、社内人脈・ネットワークがかなり構築されているということです。
社内人脈がしっかりと形成されている場合には、何かあった際には、同僚から声をかけてきますし、逆にこちらが何か困った際には色々とそれに対応するために巻き込みたい人の顔が思い浮かぶようになります。
FAの仕事は、M&Aアドバイザリーのチームを超えて、他部署とも連携することがあります。そのような場合に、他部署も含めて人脈を構築しておくと、タイムリーに適切な方へ声掛けができます。
特に案件中で調査時間が限られているときに、すぐに適切な人を思い浮かべられるのは結構な強みだと思います。
(裏を返せば)転職のデメリット
転職した直後なんかでは、エグゼキューション能力自体は変化がないとしても、自分の担当領域を超えたところで他部署との協働が求められる際に、
(そもそも、誰に聞けば良いんだろう?)
と、ある意味で頭が真っ白になってしまうということもあるように感じます。
転職それ自体は、良い選択肢なのかもしれませんが、転職そのものは単なるスタートであり、いかにすぐに組織に適合して、いかにゼロクリアされてしまった社内人脈を再構築していくかが課題となるのだと思います。
エグゼキューション40歳限界説に打ち勝つために
前回、M&Aアドバイザリーのエグゼキューションだけに特化するのは40歳位までが限界であろうという話をしました。
(参考記事)
実際、40歳前後からは案件創出(オリジネーション)業務に主軸を置いていく必要があるのですが、そうは言ってもそれまでエグゼキューションしかやってこなかった人物がどうやったらオリジネーションができるのかという問題がありました。
解決方法は人それぞれなのですが、ひとつのアイディアとして、社内人脈を活かして徐々にオリジネーションにシフトしていくことが考えられます。
すなわち、複数のカバレッジバンカーと上手くつながることで、案件の匂いがするところに多く顔を出せるようになる可能性が高まります。そのためには、そのカバレッジバンカーの担当先のM&A案件で実際に高パフォーマンスを発揮しておき、カバレッジバンカーからの信頼を積み重ねておくことが大切なわけです。
さいごに
転職をすると言うことについて、個人的には自分の経験からも積極的な意味合いでの転職はぜひチャレンジした方が良いと思います。
ただし、転職にはメリットとデメリットとがあり、この社内人脈ゼロクリアという状態は意外に大きなデメリットになる可能性もあるため、転職後には早急にキャッチアップをしていくことをお勧めします。