先日、経営統合の手法として、合併と株式移転を比較しました。
(参考記事)
実は経営統合で持株会社を作るという際に、株式移転以外にも持株会社化するための手法があったりします。
ということで、今回は持株会社の作り方について詳しく見ていきたいと思います。
持株会社の作り方は大きく分けて2つある
実務で用いられる持株会社の作り方は大きく分けると、次の2つがあります。
- 株式移転
- 抜け殻方式(会社分割)
それぞれ具体的に確認していきましょう。
株式移転
単独株式移転
まず、株式移転は、それ自体で持株会社を設立する制度です。
すなわち、自社の上に100%親会社を作るための仕組みとも言えます。
ですから、A社という会社があったとして、実は単独でも株式移転はできます。
A社が単独でHD社を株式移転で設立するとしたら、
- 一般株主
- → A社
という持株状況で、A社の株主総会特別決議でHD社を新設する株式移転が可決・実行されると
- 一般株主
- → HD社(A社を100%支配)
- → A社
- → HD社(A社を100%支配)
という持株関係になります。
こうしてみてみると、株式移転の本質は「株主の移動のための制度」と言ってもあながち間違いではないと思います。
なお、株式移転は、A社の法人格に影響はなく、単に一般株主がHD社に移っただけと言えます。
したがって、原則論から言えば、A社の契約・許認可関係には影響を与えません。
(実務上は各契約書に「株式移転をする場合は事前承諾」という条項が入っていたりするため、そう単純ではないですが)
共同株式移転
経営統合の際の株式移転は、共同株式移転と呼ばれたりします。
仮に、A社とB社が共同株式移転で経営統合をするとして、持株関係を表してみます。
- 一般株主 → A社
- 一般株主 → B社
これが、両社が共同して株式移転(HD社を設立)することで、次のような持株関係になります。
- 一般株主
- → HD社(A社・B社を100%支配)
- → A社
- → B社
- → HD社(A社・B社を100%支配)
抜け殻方式
次に、抜け殻方式について見ていきます。
まず「抜け殻方式」という制度があるわけではなく、これは便宜上の呼称です。法的に正しくいえば、会社分割(又は稀に全事業譲渡)を用いた持株会社化となります。
単独で抜け殻方式を使う
たとえば、X社という会社があって、会社分割を用いて抜け殻方式による持株会社化を考えると次のようになります。
- 一般株主
- → X社
ここで、X社の全ての事業を100%子会社に新設分割(M社と仮定)すると次のようになります。
- 一般株主
- →X社(抜け殻:M社を100%支配)
- → M社(事業を承継)
- →X社(抜け殻:M社を100%支配)
会社分割や事業譲渡でX社の全事業をひとつ下の階層の子会社に落とし、X社が何の事業もやっていない純粋な持株会社になるということで、まるで「抜け殻になった」と見えることから抜け殻方式と呼ばれているようです。
抜け殻方式を用いた経営統合
経営統合の際に抜け殻方式を用いる場合の持株関係を表してみます。
仮に、X社とY社が経営統合するとします(X社を持株会社化)。
- 一般株主 → X社
- 一般株主 → Y社
まず、X社が抜け殻方式で全事業を新設分割でM社に移転します。
- 一般株主
- → X社(抜け殻:M社を100%支配)
- → M社(事業を承継)
- → X社(抜け殻:M社を100%支配)
- 一般株主
- → Y社
次に、X社が株式交換等でY社を完全子会社化すれば、経営統合が完了します。
- 一般株主
- → X社(抜け殻:M社・Y社を100%支配)
- → M社(事業を承継)
- → Y社
- → X社(抜け殻:M社・Y社を100%支配)
なお抜け殻方式の場合、X社とY社のどちらが持株会社になるのかが変えられます。
この例では、X社が頂点になりましたが、Y社であっても全く同じです。
さいごに
今回は持株会社の作り方である株式移転と抜け殻方式とは、そもそもどんな方法なのかを確認しました。
次回は、この2つの手法のメリット・デメリットを比較していきます。
(次回に続きます)
関連する連載記事(全3回)
https://ma-banker.com/holding-company1