今日は、M&Aで時々話題になる「みなし取得日」について見ていきます。
みなし取得日が使える案件と使えない案件
株式買収の案件や株式交換の場合には、みなし取得日の規定を使って、買収者の最寄りの決算日に取得がなされたという整理にすることがほとんどです。
みなし取得日の定義(規定)を確認
みなし取得日は連結会計基準との整合性から企業結合会計にも規定が作られています。
実は、みなし取得日は、連結会計、すなわち買収(株式取得)の際の会計基準にそもそもの定めがあります。
連結会計基準
企業会計基準第 22 号(連結財務諸表に関する会計基準)
(注5)支配獲得日、株式の取得日又は売却日等が子会社の決算日以外の日である場合の取扱いについ て支配獲得日、株式の取得日又は売却日等が子会社の決算日以外の日である場合には、当該日の前後いずれかの決算日に支配獲得、株式の取得又は売却等が行われたものとみなして処理することができる。
四半期会計基準
さらに、これから派生して四半期会計基準でも同様の規定があります。
企業会計基準第 12 号(四半期財務諸表に関する会計基準)
子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日
16. 四半期連結財務諸表を作成するにあたり、支配獲得日、株式の取得日又は売却日等が子会社の四半期決算日以外の日である場合には、当該日の前後いずれかの四半期決算日等に支配獲得、株式取得又は売却等が行われたものとみなして処理することがで きる。
企業結合会計基準等の適用指針
そして、企業結合会計基準等の適用指針にはこのように規定されれています。
企業会計基準適用指針第 10 号(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針)
(4)株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合の取扱い117. 株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合には、連結会計基準(注 5)に従い、株式交換日の前後いずれかの決算日(みなし取得日)に株式交換が行われたものとみなして会計処理することができる。この場合、第 38 項の企業結合日をみなし取得日と読み替える。ただし、みなし取得日は、企業結合の主要条件が合意されて公表された日以降としなければならない。
「連結会計基準(注 5)に従い」と記載があるとおり、根本規定は連結基準となっております。
つまり、連結会計でそういう規定があるから、同様の効果(買収)をもたらす株式交換については、みなし取得日を設けますよという設計という整理です。
みなし取得日がある組織再編は株式交換のみ
ということで、合併のみならず、会社分割と株式移転についても「みなし取得日」という概念は通用しません。
株式交換以外に「みなし取得日」という概念がないのは、たとえば合併で考えてみるとイメージがわきやすいと思います。
たとえば合併にみなし取得日が使えたとして・・・
本来の合併日が3/22で、合併の効力発生を3/31だとみなしてしまうと、合併日から決算日までの10日間の合併後の会社の会計をどのように処理するのかが困難になります。すなわち、3/22には法人格が混ざって、取引も普通に行われているにもかかわらず、存続会社には無い消滅会社の取引先との取引を新会社でどうやって記録するのかという問題です。
しかも、合併日の前に決算を締めて、最終の貸借対照表(BS)を確定させて合併するのだけど、合併新会社で走り出した後の取引をどうやって分解するのも困難です。
このように、仮に合併にみなし取得日が使えたとしても、簡易的な処理ができるように採ったみなし取得日のせいで、より困難な状況になってしまうことになります。
株式移転だとより変な結果に
さらに、株式移転でみなしで取得日を適用してしまうと、新設の持株会社が存在していたのに存在していない期間ができたりします。
株式交換なら法人格は混ざらないし、新設会社も設立しないのでみなし取得日の規定を設けても弊害はないというわけです。
それでは、合併や株式移転の効力発生日はいつが望ましいか?
実務上は、合併や株式移転の効力発生日を中途半端な日付(●月17日とか)にすると、その日に決算を締めなければならず、とても煩雑になります。
したがって、実際の案件では、基本的に効力発生日は「●月1日」という具合に、月次(又は四半期・年次)決算を締めた結果を使えるように定められるケースがほとんどです。
さいごに
株式交換以外の組織再編にみなし取得日の概念がないのは、よく考えてみれば当たり前なのですが、なんとなく組織再編は全部同じような規定があると勘違いしがいちなので留意しておきましょう。