今回はいつもの先輩と後輩に登場していただき、若手を育てる際に気をつけておきたいことについて考えてみます。
文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。
今年の後輩は新人の指導を担当するようです
◎先輩、自分は今年、新人の指導を積極的にやっているんですけどね。
◆◆組織の活性化のためには、若い力をどんどん育てていく必要があるから指導に力をいれるのはいいことだよね。
◎ええ、そう思います。新人が早く育ってくれれば、私の仕事をどんどん代わりにやってくれる人が増えますからね。それで、新人に対して何を教えていけばいいのか教えていただきたいと思いまして。
仕事を学ぶときに大切にすべきこと
◆◆そうだね、1つ大事なことがあるとすれば、
だね。
◎専門用語の大事さっていうのは、私も痛感してますけど、具体的にはどういう事なんでしょうか。
「株主価値」という言葉で例を考えてみる
◆◆たとえば「株主価値」という言葉があるよね。
◎はい。
◆◆君なら、株主価値と聞いて、それに関連する他の概念から、株主価値の深い部分までの特徴をすぐにイメージできるよね。
◎おっしゃっているレベルに達しているのかは自信がないですけど、
- 企業価値と株主価値の違い
- 企業価値から株主価値の算出の方法
- 株主価値とValuationの手法の関係
- 株主価値と発行済株式総数の関係
など、株主価値にまつわる話っていうのはすぐに思いつきますね。
◆◆そうね。この仕事をある程度やっていくと、そういう感覚を持てるんだけど、新人のように不慣れな場合、企業価値と株主価値の違いすらわかっていないことがあったりもするんだよね。
◎企業価値っていう言葉は、新聞で取り上げられるフレーズですし、IRでも「企業価値の向上」というのは紋切り型のフレーズですし。
「わかる」ということの段階を考えてみる
◆◆意識が低いレベルだと、企業価値と株主価値の違いがわからないはずなんだ。「わかる」というのは、
- 【レベル1】企業価値と株主価値を、言葉の響きが違うということだけわかる
- 【レベル2】企業価値と株主価値を別個にわかったけど、そのつながりがわからない
- 【レベル3】企業価値と株主価値の違いと関係が、その周辺概念とあわせて適切にわかる
という三つのレベルがあると思うんだよね。
◎なんとなくわかります。
◆◆少なくとも、M&Aアドバイザリーの仕事をするならば、M&A関連の専門用語については、早急に大部分をレベル3に持っていく必要があるよね。
◎新人の皆さんは、いろいろな概念がレベル1又は2で留まっているようです。
◆◆それは、仕方ないよ。企業価値のレベルが3になっているのであれば、株主価値のレベルも3であるはずでしょ。だって、その2つは密接に関連しているから。
◎たしかに。となると、レベルの上がり方は線形ではないんですね。
◆◆おそらく。たぶん下に凸の曲線的なレベルの上がり方を示すんじゃないかな。
◎専門用語って言うのは、レベル1の理解だとかなり危険ですよね。
◆◆そうだね。まともなバンカー同士の仕事の会話は、それがどんなに軽そうな会話をしていても、実は結構奥が深いんだってことに気づいてほしいね。
似て非なる専門用語はとても多い
◎たとえば、
- 未積立退職給付債務と未認識債務の関係
- 連結と単体の自己株式の違い
- 自己所有とリースの減価償却費の違い
とか、似て非なるものはたくさんありますよね。これを1つでも誤ると、間違ったValuationになりますし。
◆◆そう、その「似て非なる部分」をしっかりとおさえているかどうかで、その新人に仕事を任せてもいいかどうかを判断するかな。
◎わかりました。そういうところに気づいてもらえるように、指導頑張ります。