今日は実際に投資銀行で働いていて、仕事へのモチベーションが下がってきてしまったときにどのように考えて行動していけばいいかのヒントになればと思い、M&Aアドバイザリーの部署に所属する先輩と後輩の会話調に仕立ててみました。
文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。
最近、M&Aに飽きてきている後輩のちょっとしたつぶやきから
◎実は、最近M&Aの仕事に最初の頃のような情熱を失っている自分が居ます。
◆◆おや、そうなの?
◎ええ。入社して1年目の頃は毎日が勉強でした。企業価値評価はもちろんしたことなかったですし、データルーム立ち会いすらも新鮮でした。法制度を学ぶのも学生の頃お勉強として学んでいたのとは違う実務の知恵に触れることが楽しかったです。
◆◆なるほど。
◎それが、今は何と言いますが、過去の遺産(?)で仕事をしているような気がするんです。
◆◆あはは。過去の遺産ってのは面白い表現だね。
◎わらいごとじゃないですよ。たとえば、経営統合案件をやるにしてもどこに何の論点があって、事前にどういう対応をしておけば良いのかっていうことがだいたいわかっちゃうんです。
◆◆それなら君が案件のリーダーをやってももう大丈夫だね。
◎そういじめないでくださいよ。真剣な悩みなんです。私は成長感があるのが好きなんです。そういう意味でどういう時に何をやれば良いのかがわかってしまっていると仕事に新鮮味がないといいますか。
◆◆ごめんごめん、本当は君の悩み、よく理解できるよ。
◎先輩もM&Aに飽きたことあります?
◆◆あるよ。
似たような悩みを抱えるひとは多い
◎へえ、意外です。M&Aを生きがいにしていると思っていました。
◆◆まあ、生きがいではあるけども。それでも、M&Aアドバイザリーの仕事に関して飽きたというか伸びしろが少なくなってきたなと思うところはあるよ。
◎何だか私と似た感想ですね。
◆◆たぶん、この仕事を何年かやっている人だと多かれ少なかれ同じようなことを思っているんじゃないかな。
◎みんな、ある意味飽きている中で仕事をしていると?
◆◆まあ、飽きているというか。一定の知識と経験があれば、案件のパターンごとに何を使うかわかってくるよね。この点は全く君の言うとおりだよ。
◎ですよね。
◆◆しかし、そんな気持ちで仕事をしていると、どこか雑な対応になったりするんだよね。
◎ええ、それもわかります。全力投球で仕事をしていないと、仕事をなめてかかってしまうといいますか。そんな態度がお客様にも見え隠れしてしまうのかもしれません。
◆◆そんな具合に飽きている君にできるアドバイスとして、進むべき道が2つあると思うんだ。
(1)M&Aを突き詰める
◆◆まず、世の中のM&Aに関する知識の絶え間ないアップデートに励むということだね。改正され続けるる法令や会計・税務をおさえるのはもちろんのこと、M&A事例を公開資料をベースに考察するとか。
◎M&Aを研究対象としても楽しむといことですね。
◆◆M&Aの学者になろう! という心意気でとことん突き詰めることだろうね。
◎目新しいタイプの案件に興味はありますけど、それが生きがいになるかどうかは微妙です。世の中の新しいタイプのM&A案件と自分が関与している案件との間の隔たりを感じて、むしろ凹みそうです。
◆◆まあ、時価総額数千億円のディールばかりがゴロゴロしているわけじゃないからねえ。ただし、一見普通に思える案件であっても、クライアントにとっては一球入魂なのは忘れてはだめだよね。
◎そうですね。ちなみに、もう一つのアドバイスというのは何ですか?
(2)矢面に立つ
◎もう一つのアドバイスはなんですか?
◆◆それは「矢面に立つ」ということだよ。
◎矢面に立つですか?
◆◆具体的には、クライアントや相手方のアドバイザーとの対応の最前線の矢面に立つということ。これは、ある意味、リアルタイム真剣勝負というか、一つ一つの対応でいろいろ変わってくるから面白いんだよ。
◎そうなんですね。私は相手方のFAの若手とDDのやりとりなんかはすることがありますが、クライアントの方とやりとりすることはあまり多くないです。
◆◆そこを変えていくんだよ。まず、クライアントにとっての担当が君であるということを認識してもらうんだ。相談のファーストコールが君にかかってくるようにするんだ。
◎そうなんですか。
◆◆そうだよ。君はいまはチームの裏方だから実感がないかもしれないけども、矢面に立つと言うことは本当にキツい。発言の一つ一つに責任がも求められるし、トンチンカンなことを言おうものなら、信頼をなくす。
◎なんだか怖いですね。
◆◆そう、ある意味怖いよ。でも、それがあるから面白いんだ。クライアントの信頼を得られ、感謝された時はこの仕事をやっていて本当に良かったと思う瞬間の一つだよ。
どうやったら矢面に立てるか?
◎そうなんですね。私はまだ経験したことない感覚です。ところで、どうやったら矢面に立てますかね?私は案件のチームでも1番下っ端や下から2番目であることがほとんどなんですけども。このままでは全然矢面には立てませんね。
◆◆案件の上司次第だけども、基本的な方針は「君が矢面に立っても大丈夫だ」ってことを実績としてひとつひとつチームメンバーに示していくことだよ。
◎ひとつずつですか?
◆◆そう。まず、君がDDのロジスティクスの仕切りを任せられたのなら、それを丁寧にやっていくんだ。開示方針について相手方と揉めたとしても、自分のクライアントに不利にならず、相手を陥れないような上手い落としどころに落ち着かせるんだ。
◎それは、全部自分で勝手にやっておくということですか?
チームメンバーから認めてもらうために
◆◆いや、そうじゃない。たとえば、資料開示の方針で相手方と揉めているとしたら、まずは、現在の状況と君の考える落としどころ、そこにもっていくための関係者への交渉・説得の流れをしっかりチームで共有するんだ。
◎なるほど。
◆◆そうやって、丁寧に共有しつつ自分の意見をしっかり言い、実行していくことでチームメンバーから「こいつはなかなかやるな」という信頼を得ていくんだよ。
◎クライアントから信頼いただく前提として、チームメンバーからの信頼を得ていく必要があるんですね。
◆◆そのとおり。そういう意味で、君がいま喜ばせるべき相手はまずはチームメンバーなのかもしれないね。
◎なんだかちょっとワクワクしてきました。早速いま関与している案件で、仕事をするスタンスをちょっと変えていこうと思います。
◆◆どうやら、君の最初の悩みは解決されたかな?
◎飽きてきていた部分がありますが、チームメンバーに自分の仕事で喜んでいただくという目標ができましたからそれに向かって走ってみますよ。
◆◆いいね。更に言うと、いざクライアントとのやりとりの矢面に立ったときにも同じようにクライアントに喜んでいただくんだという気持ちで仕事をすると良いよ。
◎相手がクライアントに変わっても、丁寧にひとつずつ仕事をするということですね。
◆◆そうだね。関与している案件の絡まっているところを丁寧にひとつずつひもといていくんだ。それが結果的にクライアントのM&Aの成功につながり、自分たちの評価も高まるということだね。
2つのアドバイスの関係性
◎M&Aの知識を仕入れたりするのも、全てはチームやクライアントに喜んでいただくためということですね。
◆◆そうだね。僕の2つのアドバイスは
- M&Aを自分自身の知的な喜びにする
- M&Aを通じて相手にとことん喜んでいただく
という2つのことを言っていたんだけど、実はこの2つは相互に関連していて、相手を喜ばせるように動いていると、そのための知識を仕入れることが自分自身で楽しみになってくるんだよ。
◎その極地を目指したいです。