11月に入りました。日がだいぶ短くなってきていますし、日中も影が長いですね。
でも、まだちょっと厚着すれば外を出歩くには申し分ない季節です。
さて、今週は、
です。
(いつもの先輩・後輩の対話で進めていきます。文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。)
【M&Aとキャリア】先輩と後輩のコーヒーブレイク(5)
◎先輩、こんにちは。今日はちょっとした雑談なんですけれども。
◆◆関西スーパーの話ばかりしてたから違う毛色の話も良いんじゃないかな。
◎ですね。この前、我々のチームがクライアントに怒られちゃいまして。
◆◆何があったの?
質問に答えるときにはしっかりと前提を置くべきですが
◎ざっくばらんに言えば、株式譲渡の案件でクライアントから
といった感じの質問をされたんですね。
◆◆なるほど。
◎それで、チームヘッドの方が、
という具合に答えていたんですよ。
◆◆答え方としては真っ当だと思うけど。
◎ええ。でも、蓋を開けてみたらYYY位を提示したのに落選してしまったんですね。
◆◆なんとまあ。
◎理由は金額面もさておき、SPAマークアップも厳しすぎたっていう両面からだったらしいんですけども。
◆◆だけど、クライアントは怒っている、と?
◎ええ。クライアントの方曰く、
という感じでして。
◆◆結果的に他の候補先がもっと高値をだしていて落選となることはままあるけれども、その責任を一方的にFAへおしつけられてもねえという感想かな。
◎ええ。うちのチームヘッドは「ValuaitonでサポートできないYYY以上はお勧めできない」って正当に述べたまでなんですけれども。
◆◆結果的に株式価値算定書でサポートされていなければ、取締役会を通すための参考資料としての位置付けが弱まってシナジー効果の定量かとか他の材料が必要となるからねえ。
◎それでも、結果論として落選という事実に対する「説明責任」をFAに寄せてきているというわけです。
FA業務は助言業務であり、意思決定の責任はプリンシパル(クライアント)にある前提だが
◆◆そもそも我々は助言業務であって、意思決定の責任はプリンシパルである貴社にあるっていう前提をご理解いただけてないってことなのかな?
◎いいえ、どちらかというと
ということみたいです。
◆◆たしかにお気持ちはわかるものの、我々が助言業務であるという前提を崩されるのは困るね。
◎それが通じないケースってのがあると身に染みました。
◆◆そういうケースの場合、FAとして自らの身を守るためには、意思決定の責任がクライアント側にあるということを、手を替え品を替えて相手方に伝えていく必要があるんだろうね。
◎その辺りの感覚はうちのチームには希薄だったのかもしれませんね。いつものM&Aに慣れていらっしゃるクライアントと同様のスタンスで臨んでいたところもありましたし。
前提を置きすぎるとまわりくどくなるけれども
◆◆まあ、そうはいっても実はバランスを取るのは難しいんだよね。
◎といいますと?
◆◆色んな前提を置いてFAのスタンスや価格提示のリスクを理解してもらうとして、そういった前提をおくという行為を「やりすぎる」と物言いがまわりくどくなるんだよね。
◎たしかに、言い切るのがリスクになるのであれば、言い切らずに
というスタンスをとってポジションを取らない方が無難ですからね。
◆◆そうそう。でも、ポジションを取らずに話をしていると、
「それで、FAさんとしてはどちらをお勧めしているんですか?」
と詰め寄られることもあったりして。
◎詰め寄られて、ポジョションを取った物言いをした結果、当たれば感謝されるかもですが、外れたら怒られるわけですね。
◆◆まあ、そうなるよね。ゆえに、どんなにポジションを取った発言を求められても言い切らずにのらりくらりかわすような物言いしかしないFAもいるんだよね。僕の以前の上司はそんなタイプだったし。
クライアントとの関係性は
◎その辺はFA個々人のキャラなんですかね?
◆◆まあ、その側面もあるけど、クライアントとの信頼関係も考慮要素の一つだと思うよ。
◎なるほど、この相手ならここまで踏み込んでも、仮に間違ったとしてもリカバーできる、という感じですね。
◆◆そうね。日頃から信頼関係を構築できている相手であれば、まあ何をミスったかにもよるけれども、挽回の可能性があることも多いけど、あまり信頼関係のない相手だとちょっとの判断ミスが致命傷になるから。
◎となりますと、やっぱり原則としてはあまりポジションを取らない方が良さそうにも思えてきますね。
そもそも選択肢は一長一短だから悩む
◆◆原則としてはそうなるかな。というのも、結局選択肢が複数あって、誰からみても万能な項目があればすぐにそれを選べるわけで、そうじゃなくて悩むということはどれも一長一短ってことだからね。
◎その一長一短をどうやって選ぶのかの判断軸をうまく提示できるようになると良いかもですね。
◆◆そうね。メリット・デメリットを整理できるのは当たり前で、それをふまえて何に依拠して判断をすべきかについてはちゃんとアドバイスできることが望ましいね。それであればクライアントが何を大事にするのかによって選ばれる選択肢は変わってくるし、その結果責任を追求されるリスクも軽減できるし。
◎たとえば、その案件に関連する最大のリスクは何かってことを考えるって感じですかね?
◆◆それもひとつだね。相手のスタンスによって次のように整理できるだろうし。
- 対象会社を買収できずに競合に買われることが最大のリスクだというスタンス
→ 目一杯の金額を出すことも検討すべき - 仮に競合に買われたとしても買収後に減損や事業計画未達となるなら買わないというスタンス
→ 一定以上の金額は出すべきでない
◎たしかに。その辺りはクライアントと協議しながら何に重きを置いているのかを確認していく必要があるんでしょうね。
◆◆そうそう。ちゃんと対話をして相手を理解した上で助言をすることが肝要だよね。
ただ、これは推察も入るのですが今回の対象会社はとても人気であるため、Valuationのレンジの最高値付近となるYYY位提示してようやく戦えるかもしれない水準という見立てもできます。
いずれにせよ、この金額以上は現在の貴社のシナリオに基づく評価レンジとしてサポートできないのでおすすめできないですが。」