梅雨入りしているはずの地域もなぜか晴天が続きそうな週末で、東京は真夏日の予定らしいですね。
さて、今週は、
です。
本年(2021年)4月1日以降に実施される株式交付は法令・税制の改正によって使いやすくなったといわれておりますので、その基本をみていきたいと思います。
いつもの先輩と後輩の対話を通じて株式交付制度を簡単に確認していきます。
(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)
【M&A講座】6分で学ぶ株式交付制度のポイント
株式交付制度をクライアントに説明することになった後輩ですが・・・
◎先輩、こんにちは。会社法改正で導入された株式交付についてクライアントへ説明することになりまして。
◆◆新しい制度だからお客様も気になっているのかな。
◎ええ。それで、私の理解の確認も兼ねて、株式交付制度のポイント確認にちょっとお付き合いいただけますか?
◆◆うん、構わないよ。
◎個人的には、株式交付制度のポイントを無理やり3つに絞ると次のようになると思うんですよね。
1. 株式対価で子会社化するための制度
2. 上場会社が対象会社である場合はTOBがセット(会社法+金商法対応が必要)
3. 予告公開買付け対応が必須
◆◆なるほど、それぞれ詳しく教えてくれるかな?
1. 株式対価で子会社化するための制度
◎株式交付制度は、文字通り「M&Aにおいて株式を対価として交付できる制度」ですが、株式を対価とすることはこれまでも可能ではあったんですよ。
◆◆そうだね。
◎具体的には、
- 株式交換(株式対価)
- 現物出資を使ったスキーム
のいずれかを用いればよかったんですが、それぞれ欠陥、というか使い勝手の悪さがあるんですよね。
◆◆そうなんだ、株式交換とか事例もたくさんあるけど、何が問題なんだっけ?
◎それぞれこんな感じですね。
株式交換
- 強制的に完全子会社となってしまう(部分買収ができない)
現物出資スキーム
- 検査役の検査等の規制が煩雑・有利発行規制あり
- 課税の繰延なし
◆◆現物出資はさておき、株式交換のデメリットは「少なくとも一旦は100%買収しかない」ってことだね。
◎ええ。ゆえに、上場維持したままの子会社化っていうのはこれまで現金対価TOBしか選択肢がなかったわけです(ほぼ事例のない産業競争力強化法の適用案件を除く)。
◆◆それが、株式交付だとどうなるの?
◎株式交付の特徴は、
- 子会社化が可能(子会社化する割合までの取得が必須)
- 課税の繰延制度あり(金銭との混合対価でも8割以上が株式であればOK)
- 現物出資規制・有利発行規制ともになし
といった具合に、これまでの制度の欠点を補うようにできていますね。
◆◆でも、既に子会社となっている会社に対する”買い増し”には使えないっていう留意点もあったよね?
◎あ、そうでした。子会社”化”が要件なので、既に子会社である会社に対しては使えないですね(会社法2条32号の2)。
◆◆既に子会社である会社を一部だけ買い増すっていうケースはそんなに多いわけじゃないし、そもそも上場子会社という制度がよろしくないという風潮もあるからその辺は仕方ないのかな。
◎あとは、課税の繰延制度ありっていうのも大きな特徴だと思うんですよ(租税特別措置法66条の2の2)。実務上は税務がおいついていないと結局のところ使われませんから。
2. 上場会社が対象会社である場合はTOBがセット(会社法+金商法対応が必要)
◆◆次の特徴は、会社法のみならず、金商法対応も必要ってことだっけ?
◎はい。株式交付制度自体は会社法の枠組みでその手続は株式交換に類似していますが、対象会社が上場会社である場合には金商法のTOB規制も遵守しなければらなず、結果的に「会社法+金商法」の対応が必要となります。
◆◆具体的には、金商法のどのあたりに気をつければ良いんだっけ?
◎TOB規制はもちろんですが、親会社側による有価証券届出書の提出も必要ですね。
◆◆有価証券届出書の作成・提出は面倒だけど、すでに上場している会社は参照方式で淡々と作成すれば良い感じだから、莫大な手間ってわけでもないよね。
◎そうですね。
◆◆ちょっと補足的に述べれば、株式交付には二面性があって、
- 親子会社関係の創設という組織再編行為
- 親会社となる会社の現物出資を伴う株式の募集
という両面から制度を理解する必要があるんだよね。
◎なるほど、2つ目の株式の募集の観点からも有価証券届出書の提出を含む金商法対応が必要になるわけですね。
3. 予告公開買付け対応が必須
◎最後のポイントは予告公開買付け対応が必須という点ですね。
◆◆「予告公開買付け」っていうのはどういうことなんだっけ?
◎TOBをしますよっていう適時開示はするけど、公開買付届出書は提出せず、開示直後にはTOBを始めない方法ですね。独禁法対応等の観点でいくつか過去事例があったと思います。
◆◆公開買付けの適時開示をして買付価格を固定化することで、株価の乱高下(高騰)を防げる点がメリットだよね。でも、そんなややテクニカルな仕組みがなぜ株式交付でも必要なんだっけ?
◎それは、買手(親会社)が原則として株主総会特別決議が必要で、例外的に簡易の制度を適用できるような場合のみ総会を省略できるからです。原則として総会決議が通らなければTOBを開始できないわけですから。
◆◆「親の株主総会決議を取らないとTOBが開始できない」というよりも、株式交付に係る会社法手続が完了しなかったことをTOBの撤回事由にできないため、法的手続が完了するめどが立つまでTOBを開始すべきでないという整理になっているんだけどね。
◎なるほど、その辺は理解があいまいでした。
◆◆ところで、親子間の規模の大小が明らかで、確実に簡易になる水準の案件であれば総会を開く必要はないんだから、わざわざ予告TOBする必要はないってことだよね?
◎うーん、それは確かにそうかもですが・・・。
◆◆こらっ! 簡易が適用できないかもしれないという話があったのを忘れたの?
(参考記事)
◎ああ! 簡易手続に反対する株主が総会決議を棄却できる数だけ出てきてしまったら株主総会を開催しなければならないっていう話ですね。
◆◆そうそう。同じ会社法の「簡易」の枠組みだから、株式交付にも同様の制限があるんだよ。
◎忘れないように覚えておきます。
◆◆ちなみに、この理由以外にも予告TOBとせざるを得ない理由があって、それが債権者保護手続なんだよね。
◎たしか、混合対価の場合で金銭が5%超になるならば債権者保護手続が必要でしたね。
◆◆そのとおり。債権者保護手続のためには案件の公表が必須だから、その観点でも予告TOBとせざるを得ないよね。
さいごに
株式交換は親子の双方で会社法の諸手続が必要ですが、株式交付は親会社は株式交換に準じた諸手続きを要するものの、子会社側ではそれらを要しないという特徴があります。
また、株式交付の要件は子会社化であり、完全子会社化が除外されているわけではないようです。
ゆえに、非上場会社を絡めたスキームでは株式交換の代わりに使えるのではという見解もあり、様々な活用事例が出てくるかもしれませんね。