今週も相変わらず暑い日々でしたが、日の入り時刻は少し早まってきた感があります。やはり季節は進んでいるわけですね。
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第5号)は、
- 【M&A講座】TOBスケジュール策定と臨時株主総会基準日設定の留意点
- 【M&Aとキャリア】財務アドバイザー候補への口頭試問
- 【仕事術】できる後輩は条文を読む
の3本立てで記事を書いてみます。
【M&A講座】TOBスケジュール策定と臨時株主総会基準日設定の留意点
FAの仕事の一つに案件のスケジュール案を作成することがあります。
たとえば、提案時に案件初期段階からクロージングまでの月次ベースのスケジュール案(弊社理解)を作成することはほぼ必須といえます。
実際にFAとして起用された後も、ざっくりとした週次スケジュールでクロージングまでのロードマップを示したり、具体的に日次ベースでスケジュール案を作成することになります。
日次スケジュールを作成している際に、しばしば迷うのが、
- 臨時株主総会の基準日設定公告と基準日まで、2週間とは起算日を含むのか否か
- TOB期間として休日扱いになるのはいつか
という話です。
臨時株主総会の基準日設定にまつわるポイント
まず、基準日設定に関する話は「中14日以上」と覚えればOKです。すなわち、基準日設定公告日から基準日まで、その間に最短でちょうど2週間=14日あれば問題ないです。
別の言い方をすれば、基準日設定公告日の曜日の次の曜日が基準日設定の曜日となります。
事例は、Google検索で「臨時株主総会 招集 基準日設定 公告」といった感じで検索すればたくさん出てくることでしょう。
TOBの「営業日と休日」にまつわるポイント / 何の日が休日?
次に、TOBのスケジュールを考える際の留意点を検討してみます。たとえば、完全子会社化を企図するTOBの場合、30営業日以上となることがほとんどだと思います。
ここで考えたいのは、その「営業日」のカウントはどんな日を営業日だとみなせば良いのでしょうか。
証券会社勤務の方だと、営業日=東証営業日と思われるかもしれませんがこれは誤りです。
正解は、
となります。
では、行政機関の休日に関する法律の営業日と東証営業日は異なるのでしょうか。
結論、12月29日、12月30日の2日間が差異となります。
行政機関の休日に関する法律 (TOBの営業日の考え方) |
東証の売買立会 | |
土曜日・日曜日 | 休み | 休み |
国民の祝日及び休日 | 休み | 休み |
12月31日・1月1日〜1月3日 | 休み | 休み |
12月29日・12月30日 | 休み | 営業日 |
仮にこの点を間違えたままTOBスケジュールを策定しても、おそらく東証事前相談または財務局事前相談で指摘され、最終的には誤った開示をすることはないとは思います。とはいえ、それは証券会社としては痛恨のミスになりますので、留意したいところです。
参考情報
東証規則
(出所:東証ホームページ)
金商法・金商法施行令・行政機関の休日に関する法律
【金融商品取引法】
(発行者以外の者による株券等の公開買付け)
第二十七条の二 その株券、新株予約権付社債券その他の有価証券で政令で定めるもの(以下この章及び第二十七条の三十の十一(第四項を除く。)において「株券等」という。)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者又は特定上場有価証券(流通状況がこれに準ずるものとして政令で定めるものを含み、株券等に限る。)の発行者の株券等につき、当該発行者以外の者が行う買付け等(株券等の買付けその他の有償の譲受けをいい、これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この節において同じ。)であつて次のいずれかに該当するものは、公開買付けによらなければならない。・・・(以下、略)2 前項本文に規定する公開買付けによる株券等の買付け等は、政令で定める期間の範囲内で買付け等の期間を定めて、行わなければならない。
【金融商品取引法施行令】
(買付け等の期間等)
第八条 法第二十七条の二第二項に規定する政令で定める期間は、公開買付者(法第二十七条の三第二項に規定する公開買付者をいう。以下この節において同じ。)が公開買付開始公告(法第二十七条の三第一項の規定による公告をいう。以下この節において同じ。)を行つた日から起算して二十日(行政機関の休日に関する法律(昭和六十三年法律第九十一号)第一条第一項各号に掲げる日(以下「行政機関の休日」という。)の日数は、算入しない。)以上で六十日(行政機関の休日の日数は、算入しない。)以内とする。
【行政機関の休日に関する法律】
(行政機関の休日)
第一条 次の各号に掲げる日は、行政機関の休日とし、行政機関の執務は、原則として行わないものとする。
一 日曜日及び土曜日
二 国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日
三 十二月二十九日から翌年の一月三日までの日(前号に掲げる日を除く。)
【M&Aとキャリア】財務アドバイザー候補への口頭試問
「財務アドバイザー候補への口頭試問」というタイトルだけで、どこかで聞いたことがあるなと思った方もいらっしゃるかもしれません。
かつてM&Aアドバイザリー業務のバイブルと呼ばれていた、M&AマネジメントのP.239からの数ページにわたる節のタイトルです。
全般的に古い(特に法規制)が、意外と今でも読み返すべき章もある
この本は、2004年に発売されたものであり、会社法施行以前かつTOB規制に係る金商法改正も未了であったため、法規制やスキームを学ぶとうい観点では、最新の実務を知っていて、敢えて「過去はどうだったのか」という観点で読まないと危険ではあります。
とはいえ、今読み返してみても、
- 第10章 M&A意思決定メカニズム
- 第12章 日本型M&Aのミステリーゾーン
- 第13章 M&Aにおけるストラクチャー
- 第14章 M&Aにおける交渉術
あたりの章は、面白く読める部分があると感じます。
私がM&Aアドバイザリー業務を始めた頃は上司から
「最初はわからなくてもこの本を繰り返し読んでFAとはどうあるべきかしっかりと肌身で感じろ」
と言われたものです。
最近この仕事を始めた方は、もうこの本を買うことはあまりないのかもしれませんが、個人的にはとても思い入れのある1冊です。
EPS希薄化の本質を理解しているか
本書の口頭試問の問題の一つである、「買収時のEPSの論点」については、その仕組みをしっかりと理解していないメンバーが意外といて驚きます。
株式対価の組織再編案件をやらずに、ひたすら株式譲渡案件ばかりやっているとEPSのことを考えないという側面があるのかもしれませんが、買収に係る資金調達を検討するならばEPS分析は欠かせないため、その仕組みを正しく理解しておくことは投資銀行業務をするなら必須だと思っています。
優秀だと思っていた後輩が、
とか言っているのを聞くと、正直「・・・ブルータス、お前もか」とがっくしきてしまいます。
株式対価の案件でEPSが希薄化するか否かについては、以前記事にしましたので、あわせてご参照ください。
(参考記事)
【仕事術】できる後輩は条文を読む
できる後輩とは
後輩と仕事をしているとして、その後輩が将来的に伸びるかどうかを見極める重要なポイントのひとつに法令・規制の条文まで遡って制度を確認しているかという点があると、個人的には思っている。
たとえば、親会社株式取得禁止(会社法135条)の話をしている際に、Googleで適当な記事(このブログも適当な記事のひとつだ・・・)を読んで分かった気になるか、ちゃんと条文まで読み込んでその周辺条文も読みつつ覚えていくかっていうのは積み重なると大きな違いになるだろう。
知識を付け焼き刃でよしとするか、しっかりと知識の木を自分の中に作り込んでいくかというスタンスの違いが条文まで戻って読むかにあらわれるのだと思う。
このあたりの仕事の丁寧さは、条文の話に限らず、最終的には仕事の万事に出てくると感じている。
でも、政令まで読まないとダメだよという話
ただし、法律はその設計上、一定の枠組みを政令に設計権限移譲している側面がある。
たとえば、先ほど述べた会社法135条(親会社株式取得禁止)の話で言えば、
第百三十五条 子会社は、その親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合
二 合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合
三 吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
四 新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める場合
3 子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない。
第2項5号の「前各号に揚げるもののほか、法務省令で定める場合」ということで、関係政令まで読みに行かないと完結していない(仮に5号を無視して、親会社株式を取得できる例外を1号から4号までに限定して理解するのは大きな誤りとなる)。
すなわち、もし、条文だけ読んで政令を読まないなら、ネットの解説記事の方を読む方がまだマシだと思う(ネット記事はたぶん政令まで含めた話として内容をまとめているはずだから)。
とはいえ、そもそもその条文の関係政令がどこの何かを知る術がないと、
「いったい、どの政令の第何条を読めばいいんだよ!」
となり、辛いとは思う。
なので、勉強するときはe-Govで法令をみているだけじゃなくて、やはりここはちゃんと本を買って条文を読むのが間違いない。
たとえば、会社法なら次の本は必携と思っています。
この本の何がよいというと、会社法の条文内で政令に飛んでいる場合には政令の条文番号を記載してくれている(例:会社法135条の部分で、会社法施行規則23条を関連政令として載せてくれている)のはもちろんですが、他にも、条文の号数が多い場合の相違点・留意点をピンポイントで解説されており、とてもわかりやすいです。
さいごに
最後の条文の話もそうですが、丁寧に仕事をした方が最初は時間がかかるかもしれないけれども、あとになって見てみれば最も効率的に仕事ができたよねという具合になることが多いと思っています。
まさに、急がば回れの精神で、しっかりと調べて自分の中に体系立てて知識を吸収・定着させていきたいと思います。