今週は気温も相当に下がってきましたね。日中、スーツのジャケットを着て歩いていても暑苦しくないような気候です。
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第12号)は、
- 【M&A講座】入札案件において金額面で勝てなかったというのは結果であって原因ではない
- 【M&Aとキャリア】何かがわからない状況に気持ち悪さを感じられるか
の2本立てです。
【M&A講座】入札案件において金額面で勝てなかったというのは結果であって原因ではない
FAとして起用されるケースとしては買手候補サイドの方が多い
先週の記事で述べましたとおり、入札案件では基本的に売手についた方が、FA目線では美味しいです(売れればFeeがいただけるという意味で、食いっぱぐれのリスクが低いから)。
とはいえ、担当するケースという意味では逆に買手候補のFAとして起用されるというケースの方がだいぶ多いです。そして、その場合は買収が成立しないと成功報酬がいただけないということとなります。
個人的な経験談としても、買収できなかったケースが大半
相対案件を別として、入札案件の買手候補のFAとして起用された経験のうち、どの程度が入札を勝ち取り買収成立に至ったのかということを考えますと、ざっくりとした体感で1〜2割程度という印象です。
1次入札プロセスで敗退するならば、FAとしてのお付き合いも短期間で済むわけですが、DDプロセスを完遂して、2次入札(最終選考)で敗退すると精神的にもくるものがあります。でも、買収できないケースの方が大部分なわけです。
なぜ入札案件で敗れるのか
なぜ、入札案件で勝てないのかといえば、ほとんどのケースで自分達のクライアントよりも好条件の札を入れた買手候補が居たからです。
おそらくは、勝てた候補先の入れた札は、金額的にもっと高く、また、その他の条件でももっと売手が好みそうな条件を受け入れているのでしょう。
ここで、単純に
として、潔く諦めるということは気持ちの整理をつけるという観点では大切です。
ただし、クライアントが札を出すまでに工夫できたことは本当に無かったのでしょうか。
クライアント社内の買収案件反対派の声が大きかったのではないか
入札案件で負けるのは、単純に言えば他の買手候補よりも高い価格の札を出せないからではありますが、それはFAが提示するValuation結果が理由になるということは少ないと思います。
買収案件における株式価値算定実務では、買手候補として複数の事業計画シナリオを策定し、売手提示ケースと複数のリスクケースに基づく株式価値の評価のレンジを算出して、どのあたりの金額で入札するのかを検討することになります(要は、結構幅広のレンジになるわけです)。
そして、そのレンジの中のどこで出すかは、クライアントの社内でいろいろな意見がある中で「声の大きい立場の方」の意見が通りやすいことが多い印象です。そして、入札に負けるケースというのは、その声の大きい立場の方がその買収案件に明示・黙示を問わず反対派であるという場合が多いです。
社内の反対派に勝つためには
だれが社内の反対派になるのかは、ケースバイケースで異なりますが、印象としては経理財務系列(管理系)の役員レベルの方々が反対派にまわることが比較的多いように感じます。要は、事業部はやりたいけど管理本部は反対だ、という感じです。
そのような場合に、どうやって管理系列にご納得いただくかということについては、それこそ千差万別ですが、パワーバランスを考えますと、その管理系トップの方以上の権限を持つ方に賛成派になっていただくことが重要だと思います。
(たとえば、社長を巻き込み、社長としてもその案件を気に入っているという状況にまで持ち込めれば、反対派を押し切って高いレベルの金額を提示することも可能となるかもしれません)
ただし、賛成派を増やし、巻き込んで行くためには、強烈なリーダーシップでもって、その買収案件をやろうと意気込むメンバーが欠かせません。
通常は事業部のトップレベルの方がその役割を担うわけですが、事業部トップとしてもその案件に対してそこまで思い入れがないという場合には、賛成派を増やしていくのがとても難しくなります。
FAとしてできること
FAとして起用された場合に、クライアントが出せるレベルで最大限頑張って札を入れて欲しいと思うところではありますが、その前提として、その案件に対するクライアント内部メンバーの思い入れを観察することが重要だと思います。
要は、誰が賛成派で誰が反対派なのかを見極め、その声の大きさ・バランスを考慮し、賛成派を増やす必要があればどのように賛成派を増やしていっていただくのかをクライアントの対面の方と協議していくことが重要なわけです。
とはいえ、FAとしてクライアントの社内政治につきできることは本当に限定的というか、まあ、ほとんと無いよねということが大部分ではありますが、自分の会社の偉い人を活用するとか(弱いですが)使えそうなカードはいくつかはあるようにも思います。
【M&Aとキャリア】何かがわからない状況に気持ち悪さを感じられるか
新卒・中途採用を問わず、新入社員のジュニアメンバーが伸びていけるかどうかを見極めるのは難しいところです(それが簡単にわかるなら、採用段階で区別されるでしょうから)。
ただ、一緒に案件をやっていくと大体のケースで、伸びるかどうかはわかってくるようにも思います。
たとえば、議事録を書いてもらうと・・・
ジュニアメンバーの仕事の一つに会議の議事録を書くということがあります。
(ご参考)
特に、M&A歴の浅いメンバーが議事録を書くと、専門用語やその案件において使われている略称・呼称の意味がわからないということがたくさんあると思います。
メモ書くだけなら、意味が分からなくても一応文章をつくることはできます。ゆえに、議事録を書くにしても、用語の意味があやふやでも、それを文の中で適切にあてはめられれば文としては成立します。
ただし、結構な割合で、
伸びるジュニアの場合
伸びるジュニアの方は、出会す用語の意味がわからないという状況が気持ち悪さを感じて、グーグルで検索したり、それでわからなければ先輩メンバーに質問・確認をしてくるように思います。
この、わからないことが気持ち悪いという感覚をいつまでも保てるかということはとても重要だと思います。
わからないことも曖昧なままでいいやと思うのか、わからないことはなんでも調べようと思うのか、ひとつの事象だけとりあげれば大した差が生まれるわけではありませんが、繰り返されることによって、数年後には取り返しのつかない差ができてしまいます。
もちろん、すぐに調べようと思う心がけだけが重要なわけではありませんが、重要な要素のひとつだと思います。
できない判定されるのは結構早い
そして、ある意味恐ろしく、ある意味で仕方ない話ではありますが、そのジュニアの仕事ができるのかどうかは、上の方のメンバーは冷静にジャッジしています。
お試し期間にうまくまわってくれるジュニアには安心するものの、例えば入社後1年経っても伸びてないなと思われるジュニアにはその後もあまり期待しません(そして、おそらくは一定期間後に、別の道が案内されるでしょう)。
やや残酷ではありますが、適材適所という意味では、判断は早い方がお互いにとって良いとも言えるとは思います。
さいごに
専門用語の意味を、どこまで深く理解できるかということはとても大切だと思います。
以前同じような話を考えたことがあったので、こちらの参考記事もぜひご覧ください。