先週は冒頭に月や火星の話をしたのですが、その時は気付いていなかったのですけれども、10/6は火星最接近の日だったようです(その日の星空はこんな感じでした)。
この日の火星の見かけの等級は-2.6で月と金星を除き一番明るい星だったようです。
ちなみに、火星の等級は時期によってだいぶ異なり、暗い時は+1.5を超えて暗くなっていく(2等星以下の明るさになってしまう)らしいですね(惑星であり月と同様に太陽光を反射して光っている(ようにみえるだけ)のと地球からの距離が時期によってだいぶ変わるゆえ)。
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第9号)は、
- 【M&A講座】株式譲渡の売手のFAと買手候補のFAのどちらをやりたい?
- 【仕事術】交渉を打ち切るというカード
の2本立てです。
【M&A講座】株式譲渡の売手のFAと買手候補のFAのどちらをやりたい?
以前、株式譲渡案件における売手のFAと買手候補のFAの仕事内容をざっとですが説明してみました。
投資銀行(証券会社)のカバレッジ部隊はM&Aに関しては基本的にまずは売手のFAとして起用されるべく、日々提案活動を繰り広げているのだと思います。
なぜ売手のFAを選好するのか
売手は対象となる会社・事業がいつか売れれば手数料をいただくことができます。
一方、買手候補のFAは特に入札案件の場合はクライアントが対象となる会社・事業を買えない可能性が相応にあるわけで、買えなかった場合は(成功報酬型で動く投資銀行のFAは)ほとんど手数料がもらえないことになります。
という感じで経済合理性で考えれば、労多くして功少なしとなりやすい買手候補FAよりも売手FAをとりたいとなります。
簡単に売手FAがとれるわけではない
とはいえ、みんな考えることは同じなので、簡単に売手FAがとれるわけではありません。
たとえば、べったりとした関係性のあるクライアントであれば、売り物がある場合に最初に声をかけてくださるということもありますが、売手FAに就任できるケースとしては少ない印象です。
たいていのケースとしては、売り物がある場合それに関して良い提案をしてくれた会社及び直接その案件を提案はしていなかったものの過去に色々な提案をしてくれた会社等の複数社をFA候補として呼び立て、FAの入札を行うという流れになると思います。
(参考記事)
現実感のある提案とは
何が「良い提案」なのかについては、正解があるわけではありませんが、売手に対して刺さる提案をするためには、「現実感のある話」をする必要があるのかなと思います。たとえば、
という内容が刺さる提案の骨子の一案になるかなというところです。
事業全体のポートフォリオをどうするかということは、所詮外部の投資銀行が口を出せる話ではないため、基本的には売手自身が考えていることをトレースしながら話をすることになります(つまり、この点にはほとんど付加価値はない)。
もちろん、その売手自身の考えるポートフォリオにマッチしそうな売り物を紹介するという点においては投資銀行の付加価値はある(のかもしれません)ものの、ポートフォリオがどうあるべきかということについて言えることは相当に限定的だなという認識です。
では、どこが提案の付加価値になるのかといえば、その売却対象になり得る会社・事業に関心を持つ企業が具体的にどこで、それぞれの企業が持ちそうな関心度合いを「勝手分析」を現実感のある話として示すことだと思います。
本当に勝手に分析した絵に描いた餅を示しても時間の無駄になってしまいますので、そうならないように日頃から色々な企業の関心を雑談ベース含めて様々なレイヤーで集めている必要があります。すなわち、各社から聞いた秘密情報をいかに一般論に昇華して勝手提案にまとめられるのかというのが手腕のひとつなのかなと思います。
【仕事術】交渉を打ち切るというカード
以前、交渉術について思いつくものをいくつかあげて連載してみたわけですが、その時に述べなかったアイディアがありますので、ちょっと書いてみようと思います。
それは、
ということです。
打ち切りのカードの使いどころは難しい
交渉を打ち切るまたはそれを示すことは、相当に攻撃的なカードです。
それまで友好的に良い雰囲気で協議を進めていたとしても、交渉打ち切りに触れた瞬間に話し合いの場に緊張感が走ることは間違い無いでしょう。
それでも、このカードを使わなければならない場面もときにはあるわけです(もちろん、使い所を間違えれば本当に交渉が終わってしまいますので、そういう意味で難しいわけです)。
基本的に交渉の最初期フェーズか最終フェーズで
経験則で恐縮ですが、交渉打ち切りのカードは、交渉の最初か最後で使うと効果的な印象です。
最初期に出すケース
まず最初から切り出す場合は、まずはこの相手方と交渉してみたいところなんだけども、譲れない点が大きな争点になっているようなケースです。さらに、有力なBATNAがあるとなお使いやすくなるでしょう。
基本的に、最初にこのカードを出すのは売手サイドだと思います(売手の交渉パワーは基本的に最初が一番高いため)。
株式譲渡案件でいえば、売手による「金額を●円以上に上げてくれたら交渉しますよ」という主張もこの枠組みの一つです。
それ以外にも、たとえば、買手候補が株式譲渡後の売主の継続サポートを管理面でだけでなくビジネス面でも相当に求めているケース(最低購入量の取り決めとか)なんかは、売手としてそのあり方を最初に合意できなければそもそも交渉しないというスタンスをとることがあります。
要は、売手として交渉のテーブルにつく前提としてのハードルを上げておき、それを超えてきたら交渉しますよと示すようなイメージです。
最後に出すケース
交渉は積み上げごとなので、フェーズが進みいろいろなことが合意され始めると、あとこれら●個の争点をクリアすることができれば最終合意に至るなという印象を交渉参加者のいずれもが持つようになります。
イメージとしては、みんなでトランプの塔を作っている感じです。ここまで組み上げられたなら、あとは頂点の2枚のカードをうまく置くだけだという場面で、
という具合に、強気で主張し、寝っ転がるというところです。
これは、売手側も買手候補側もいずれも使い得る場面だと思いますが、印象としては買手候補側が最後の場面で寝転がることが多いかなというところです。
交渉を積み上げてきた相手方としては、
- なぜそんな強い主張を今頃になって
- ブラフか本気か
- お互い譲れないから最後まで争点になっているのに
という具合にいろいろと思い悩むことになりますが、交渉をまとめ上げようという気持ちが強い場合には、その強い主張に概ね沿った形で合意に至ることがあるように感じます。
要は、「交渉の9合目まできているわけでこのまま最後まで突き進みたい」という気持ちを逆手に取った方法だといえます。
FAとしてはどうするか
最初に述べたとおり、交渉を打ち切るというカードは使いどころがとても難しいです。
変に出せば、それまでの友好的な関係が一転してネガティブになり、そのまま本当に交渉が打ち切られてしまうこともあります(特にカードを出された相手方のプリンシパルが激情型の場合には、感ん情的になって収集がつかなくなることもあります)。
したがって、
- そもそもこの案件で打ち切りカードを示すべきか(特に双方のプリンシパルの属性の観点)
- 本当に打ち切られたとしても差し支えなしなのか
- FA間トークとして打ち切りを示唆する程度にしてみるという運用はないのか
といった具合に、都度、その有効性と運用方法をよくよく検討しておく必要があると思います。
さいごに
M&Aは特に日本企業同士の場合には、売手・買手の双方の信頼関係が大前提になることがほとんどです。
信頼関係を構築していき、お互いわかり合った上で対象会社(事業)を譲渡しましょうという流れが必要なわけです。
信頼関係を構築するのは時間がかかりますが、それを失うのはある意味では一瞬です。
FAとしてはプリンシパル同士の信頼関係を損なうようなやり取りがないように綿密に動いていく必要があるところですが、あまりにも案件成立を目指している感じが見え隠れすると、クライアントから、
と苦言を呈されることにもなるため、この辺りのバランスは毎度とても気を使うところです(まあ、それがまた面白いところでもあるわけですが)。