今週末は4連休の方が多いのではないでしょうか。毎度気候の話ばかりですが、個人的には9月〜11月くらいの気候が一番過ごしやすくて好きなので、これからが楽しみです。
(春は気候は良いんですが花粉がつらいですからね・・・)
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第8号)は、
- 【M&A講座】「支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主保護の在り方等に関する中間整理」の公表 について
- 【仕事術】プレゼン・説明ではリスクを指摘するだけで終わってはいけない話
の2本立てです。
【M&A講座】「支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主保護の在り方等に関する中間整理」の公表 について
東証が改めて少数株主保護の仕組みを検討するようです
9/1に東証HPにて支配株主等からの少数株主保護はどうあるべきかについてまとめたペーパーの中間整理が公表されていました。
そんなにページ数があるわけではなく比較的さらっと読めますのでぜひご一読ください。
昨年の経産省の「公正なM&Aの在り方に関する指針〜・・・」もそうですが、昨今の少数株主保護の流れは勢いを増すばかりですね。
ポイントとしては、
といった具合に、「支配的な株主」という概念を設けて、支配株主との重要な取引よりも広範なケースをカバーしようとしている意向が見えます。
ただ、M&Aに関連する実務という観点では「支配的な株主」による完全子会社化においても、経産省のMA指針に則り特別委員会を組成して検討をしているケースがだいぶ増えているため、ある意味で実務が先取りしている部分もあるのでしょう。
とはいえ、それは各案件当事者の善意の判断に任せている状況であるわけですから、東証としてはもう少し規制の網をかけることを検討したいということなのだと推察するところです。
また、M&Aに直接関係しないところでの支配的な株主への規制は、たしかにその必要性があるのかもしれません(そちらは専門外なので実際のところの肌感覚はありませんが・・・)。
TOBの応募推奨をしないなら賛同意見を出してはいけないのか!?
個人的には、P.4以降の「(2)最近の事例に基づく指摘」に挙げられたケースがおもしろいと感じました。
特に、
上場子会社の取締役会が、支配株主の提示した公開買付価格が特別委員会の取得した株式価値算定書におけるDCF法の価格レンジの下限を下回っていることなどから、支配株主による公開買付けについて、賛同意見を出しながら株主に対する応募推奨をしなかった事例が生じており、支配株主による公開買付けに賛同するとともに、応募するかは株主の判断に委ねる旨の意見を上場子会社の取締役会が表明することは妥当であるとの特別委員会の答申書では「少数株主にとって不利益でない」ことを積極的に述べた意見を入手したとはいえないのではないかとの指摘
・・・(関連の記載としてP.8)・・・上場制度における少数株主保護の枠組みとして求めている「少数株主にとって不利益でないことに関する意見」との関係では、特別委員会は、応募推奨しない場合には意見表明を留保すべきではないかとも考えられるとの指摘がある。注:もっとも、応募推奨しないとの答申を行っていることは、ある意味、特別委員会が機能して いることの表れでもあるとの指摘がある。
については、伊藤忠ファミマのケースも該当しており、早速、論点のあったケースとして指摘されてしまったというところでしょうか。
このセクションの指摘ケースのうち、この段落だけ「支配的な株主」ではなく、「支配株主」との取引に限定しているのも奥が深いですね(もちろん、支配的な株主との取引では特別委員会の組成が必須ではないはずなので、ここを支配株主に限定するのは当然という見方もありますが、、、敢えて感が見えて興味深いです)。
いずれにせよ、実質的に、
と指摘してしまっているのは、このペーパーがまだ中間整理とはいえ、今後の実務に影響が出そうですね。
もちろん、このペーパーもシンプルな少数株主保護原理主義に走っているのではなく、過度に少数株主保護の手続きを入れることが、むしろ親会社による完全子会社化案件の発生・成立を阻害しかねないので、その辺りのバランスも鑑みた設計を引き続き検討するようではあります。
(たとえばマジョリティ・オブ・マイノリティの仕掛けについては、MBOでなく支配株主によるTOBならば、それを条件とすることが成立の現実性を失わせ兼ねないという側面も認識されているようですし、いいあんばいに落ち着くのではと期待します・・・)
いずれにしましても、今後の動きを注視していきたいと思います。
【仕事術】プレゼン・説明ではリスクを指摘するだけで終わってはいけない話
リスクの説明はアドバイザーの仕事の必須事項ではあります
M&Aアドバイザリーの仕事では、案件の初期段階で今後起こり得るであろう事象について留意点を説明することが一般的です。
たとえば、完全子会社化案件では、少数株主保護の枠組みで買取請求権や価格決定申立の権利があり、それの可能性をゼロにすることはできない旨を説明する必要があります(要は、株主側がその権利を使うかどうかは、株主次第なのでわかりませんよね、という話)。
そのような場合、
という感じで、リスク・留意点の指摘だけで留めてしまうのは場合によっては得策ではありません。
アドバイザーとしては、価格決定申立等の少数株主との非訟事件も
「まあ、案件として手続の公正性を担保している限り、あとはもしそれが起きてしまっても粛々と対応するしかないよね」
と思っている(割り切っている)のかもしれませんが、クライアントはその当事者になるわけですから、リスクだけ殊更に強調されると怖くなってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、リスクを指摘しないアドバイザーはもってのほかですが、指摘だけしておいて「あとはよしなに」というのも、ちょっと不親切でしょう(クライアントの不安だけ煽っているような構図になってしまうからです)。
実務的な負担感まで説明できるか
総花的にリスクを指摘しておく方がアドバイザーとしては無難です(あとから、我々は指摘しておきましたよね、と抗弁できるから)。とはいえ、そのリスクのその案件における実際のところまで踏み込んで語ることを要するケースもそれなりにあると思います。
特にクライアントから、
と聞かれた場合には(もとい、聞かれなくとも)、その対応方針もしっかりと説明しておくことが必要です。
たとえば、先程の価格決定申立の話で言えば、直近までの類似事件の裁判所の判断を一般論として知っておくとか、和解になったため一般論では情報がないところを弁護士と協働しながら説明するとか、そもそも公正性担保措置・利益相反回避措置の重要性(裁判所の判断とを絡めて)を説明するとか、いろいろと対応策として述べられることはあるわけです。
要は、
という具合に、相手がどんな出方をするかを可能な限り想定して、それぞれの打ち手を述べておくことが望ましいというところです(そのためには、初期段階から案件の弁護士とも上手く協働しておくことは必須ともいえますし、”わかっている弁護士”を案件で起用できるかも重要なポイントです)。
さいごに
以前も同じような話を書いた気がしますが、案件のチームアップにおいて、LA(弁護士)はかなり重要です。
M&Aに不慣れなお客様の場合、顧問弁護士を起用したがるケースがありますが、その顧問弁護士の得意分野がM&Aではないにもかかわらず、案件に関与してきてしまうと、場合によっては混迷を招く原因となります。
FAとしてはそうなるのを避けるべく、なんとか慣れているLAを推すわけですが、一筋縄ではいかないこともままあります。
顧問の先生の顔も立てつつ、案件はしっかりとしたLAに関与してもらう枠組みをいかに用意するかもFAとしての腕の見せ所のひとつなのではないでしょうか。
ということで、また次回の記事でお会いしましょう!