会社法の組織再編行為として、
- 合併、会社分割、株式交換及び株式移転
の4つの手法があります。
これらについてそれぞれの特徴を比較してみようと思い、先輩と後輩の対話仕立てで記事にしました。
(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)
組織再編の四きょうだいとその特徴
組織再編の四きょうだいとは?
◎先輩、今日は組織再編について考えてみたいんですが。
◆◆いいよ。
◎いきなりですが、合併は組織再編の四きょうだいの中の長男だと思うんですよね。
◆◆ごめん、まず、その「組織再編の四きょうだい」とは何かな?
◎合併、会社分割、株式交換、株式移転の4つのことですよ。
◆◆そんな呼び方があるんだ?
合併=長男、分割=次男
◎いえ、私が勝手に命名したんですけど、その四きょうだいのなかでも長男である合併がを理解することが重要だと思うんですよね。
◆◆たしかに、合併を知っておくと、他の3つの組織再編をその比較で理解できるということだよね?
◎そんな感じです。
◆◆ただ、その四きょうだいの次男の「会社分割」が一番の荒くれ者で、こちらの理解にも苦労するような気がすると、個人的には思うんだけども。
◎分割は引き出しが多いというかパターンが多いので論点をまとめるのに苦労しますよね。でも、基本は合併に類似しているはずなんです。
◆◆ふむ。ちなみに、株式交換と移転はどういうイメージなの?
株式交換=長女、株式移転=次女
◎株式交換と株式移転は長女と次女ですね。
◆◆なぜそこで性別が変わる?
◎組織再編の哲学(組織ごと混ぜてしまうか、株式で繋げるか)、債権者保護手続の強制性、税制非適格の場合の時価評価対象とかのあたりで合併と分割と大きく違っているからです。
◆◆なるほど、ちょっと面白そうだから君の考える区分に従って組織再編の四きょうだいを分析してみようか。
どの観点で比較するか?
◆◆合併を軸にして、他の組織再編と比較しながらみていくということで良いかな?
◎ええ、それでお願いします。
◆◆最初にどの点を比較するのかを列挙しておいた方がいいかもね。組織再編の四きょうだいについてどのような点を比較したら良いと思う?
◎そうですね。こんな感じでいかがでしょうか。
- 四きょうだいの特徴(各組織再編の目的と効果)
- 四きょうだいの比較
- 略式・簡易組織再編
- 債権者保護手続
- 税制非適格の時の時価評価対象
- 金商法対応
- 独禁法対応
◆◆了解だよ。それでは、まずは四きょうだいの特徴からみていこう。
組織再編の四きょうだいの特徴
長男=合併
◎まずは合併ですけども、さきほども申し上げましたが、これを軸に理解を進めるのが良いと思うんですよね。
◆◆論点としては分割の方が多いんだよね?
◎ええ。でも、分割は合併の派生形といいますか、合併をしっかりとおさえればそこからの類推で理解できると思うんです。
◆◆まあいいや。それで、合併そもそもの特徴はどういうイメージなのかな?
◎ところで、M&AってMergers & Acquisitionsですよね?
◆◆何を藪から棒に。
◎M&Aを厳密に区分すると、Mergersに該当するのは合併のみで、のこりの3手法はAcquisitionsに該当すると思うんですよね。
◆◆確かにそういう見立てもできるね。
◎でもそれが大きな罠で、その区分に意味はあまりないと思うんです。そしてむしろ私の考えた長男・次男の男集団と長女・次女の女集団の区分こそ重視されるべきかと。
◆◆で、その区分とは?
◎要は、事業と法人格の混ざり合いがあるかどうかってことなんですよね。合併ならば2つの法人格が融合するということですし、会社分割はある法人格が別の法人格から事業の切り出しを受けて受け入れるってことですから。
◆◆それはそうだね。
◎一方で、株式交換と株式移転は、それぞれ完全親子関係を作る制度、自社の上に別の完全親会社を設立する制度ですから、法人格と事業の混ざり合いはなく、株式の保有関係のみが変更になるということです。
◆◆その点についても違和感はないかな。
◎ということで、まずは合併の特徴は法人格同士の融合を伴う組織再編とまとめられそうです。
次男=会社分割
◎次に、次男は会社分割という整理なんですが、これは合併のように法人格同士の融合ではなくて、ある法人格が別の法人格の保有する事業を一式として譲り受けるための制度ですね。
◆◆それはそうなんだけど、事業譲渡という制度でも同じように有機的な事業を一体として譲渡する制度だよね?何が違うのかな。
◎事業譲渡は個別承継なので取引法上の行為ですが、会社分割は包括承継の組織法上の行為とも言われますよね。
◆◆取引法とか組織法とかいう区分は法学者が好みそうなところなんだけど、まあ、端的に個別承継か包括承継かっていうことに違いがあるよね。
◎実務上は会社分割といっても契約にChange of Control条項が付いていて単純には行かないのでしょうけれども原則論的には包括的に承継されますよね。
◆◆まあ、事業譲渡と会社分割との差異はまた別の機会に詳細を検討してみたいところだね。
長女=株式交換
◎株式交換は、完全子会社化のための制度ですね。
◆◆そうだね。
◎次の次女として株式移転は自社の上に完全親会社を設立する制度ですから、下に完全子会社を作るか、上に完全親会社を作るかの違いとも言えるでしょうか。
◆◆そうとも言えるけれども、株式交換のターゲットとなる会社は既存の会社しかないよね。
◎ああそうですね。逆に株式移転は常に新設の会社として完全親会社が設立されるというところですね。
◆◆いずれにせよ、株式の保有関係が変わるのみで、法人格の融合や法人格を異動するような事業の移転は発生しないよね。
(参考記事)
次女=株式移転
◎株式移転は自社の上に完全親会社を作る制度ですが、実務上は共同株式移転として経営統合の際に用いられるケースが多いですかね。
◆◆まあ、我々が呼ばれるようなM&A案件として株式移転を使う場合には共同株式移転として用いるのがほとんどだけども、実は上場会社が関与する単独株式移転も、事例としてはあるんだよね。
◎そうだったんですね。
◆◆株式移転をしてしまうと、上場会社であれば証券コードが変わったり、株主資本の内訳が変わるので、無意味に単独株式移転をしようとすることはないのだろうけど、ケースとしては存在しているよね。
(次回に続きます)
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