会社法に定められる、組織再編行為である、合併、会社分割、株式交換及び株式移転の4つの手法についてそれぞれの特徴を比較してみようと思い、先輩と後輩の対話仕立てで記事にしております。
今回は連載第3回ということで、債権者保護手続を確認していきます。
(文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です)
債権者保護手続
◎次に、組織再編4きょうだいの債権者保護手続について考えてみたいと思います。
◆◆どの組織再編で債権者保護手続が必要とされるのかを納得して理解するためには、そもそも債権者保護手続が必要とされる理由を知っておく必要があるね。
◎たしかに、なぜ債権者保護手続が必要なんでしょうか?
債権者保護手続が必要となる理由1 〜株主資本が減少するから〜
資本三原則・・・まずは減資の場合について考える
◆◆債権者保護手続は組織再編の他にもいわゆる減資の際にも要求されるのは知っている?
◎ええ、減資で必要になるのは知っています。
◆◆会社法というか従前の商法の時代から資本三原則というのがあってね。
◎なんですか、それ?
◆◆詳しくは、会社法の学術書でも読んで欲しいところだけども、
- 資本確定
- 資本充実・維持
- 資本不変
の3つの原則を言うんだ。ちなみに、資本確定を三原則から削除する考え方もあるみたいだけどね。
◎知りませんでした。
◆◆そのうちの資本不変の原則の考え方は、会社は勝手に資本金を減らしてはいけないということなんだよ。
資本金が大切な理由
◎なぜ資本金がそんなに大事なんでしょうか?
◆◆資本金は新株発行等で現金が払い込まれたことを示す資金調達の痕跡であって、実際に現金があるのかどうかについては何も明言していないのはわかるよね?
◎ええ。BSの右側は資金調達の源泉を示すと習いましたから。
◆◆そういう意味で、利益剰余金がたんまりとある会社なんかが配当の代わりに減資をするなんてこともあるかもしれないけど、そういう場合には資本金として払い込まれた以上の現金が社外に出て行っていない限りは債権者が実際に困るわけじゃないとも言えるよね。
◎資本金という調達源泉の痕跡は減っても、会社の現金が債権者が貸してくれたときよりも十分増えているのであれば債権者としても別段困らないということですね。
◆◆そんな感じ。でも、商法というか会社法は資本金をとても大事に考えているので、資本金の額を減らすことが、実際に債権者の権利が害されることになるかどうかはわからないものの、「資本金の減少=債権者を害する恐れ(可能性)あり」として債権者保護手続が必要とされているんだ。
◎なるほど。
◆◆ということで、資本金の額が減るかもしれないという場合には債権者保護手続が必要ということを踏まえて、合併において資本金の額がどのように決まるのか改めて見てみると、どう?
◎会社計算規則第35条によれば、合併の際、資本金を含めて資本項目は株主資本等変動額の範囲内で合併契約書の定めに従って決められますね。
◆◆ということは、仮に株主資本等変動額がマイナスならば、株主資本の総体が減少してしまうわけだね。
◎そうなりますね。
◆◆これは結果的に組織再編に伴う広い意味での減資(決して資本金が減っているわけではないが)ともとれるよね?
◎なるほど。
◆◆そんなわけで合併の場合には債権者保護手続が必要とされるんだ。
◎よく、わかりました。
債権者保護手続が必要となる理由2 〜簿外債務を引き継ぐかもしれないから〜
合併と会社分割で債権者保護手続がMUSTな理由
◆◆実は、これまでの理由だと合併の場合に債権者保護手続が必要な理由の半分しか説明していないんだけども、君はこれで納得してくれるかな?
◎え、そうなんですか。たしかになんか気持ち悪いですね。合併はあらゆる潜在債務を含めて全部が包括的にまとまってしまうんですよね。
◆◆そうだよ。
◎ということは、債権者の視点で見ると形式的な株主資本の額がどうなるかよりも合併相手が「まともなのか?」ということの方が重要に思えます。
◆◆うん、そうだね。その感覚が大事だよ。君の言うとおり、合併は法人格を一つにしてしまうので、あらゆる権利義務がまとまってしまうんだ。
◎はい。
◆◆だから、
- 法人格が混ざる場合=合併
- 法人格に事業を混ぜる場合=会社分割
の2つのケースは債権者保護手続がMUSTとされるんだよね。
株式交換と株式移転で債権者保護手続が原則不要な理由
◎そういえば、株式交換と株式移転は原則として債権者保護手続は要りませんよね。
◆◆そうだよ。株式以外の金銭等を交付する場合の交付側と新株予約権付社債を引き継ぐ場合以外は債権者保護手続が要らないんだ。
◎それは、株式保有関係を変える手続でしかないからですかね。
◆◆会社法的に言うと、「株主有限責任の原則」の観点からだろうね。有限責任ということは、ゼロになってもマイナスにならないということだよね。
◎株式を取得しているだけで、親と子の法人格が混ざっている訳では無く、最悪価値がゼロになるだけで、マイナスにはならないということですね。
◆◆そもそも、相手方の株式を取得する対価が自社の新株または自己株式の代用処分だから、会社財産が減っているわけでもないからね。しかも、その取得した株が最悪ゼロでマイナスにならなければ、債権者から見ると普通の資産購入と同じようなもんだから保護する必要は無いよねということなんだろうね。
◎なるほど。
でも、実際には保護しなければならないのだけども
◆◆とはいえ、一般的には銀行の融資条件には組織再編をする場合には事前に通知して承諾を得ることとなっているので、実際には債権者保護手続のような仕組みが契約上確保されているんだけどね。
◎そういえばそうですね。
◆◆また、取引先との基本契約にも同様の条項が入っていることが多いため、実質的には債権者保護手続のような手当がなされることも多いんだよね。
◎法による強制力まではなくても、各自契約で確保しているわけですね。
◆◆そういうことだよ。
◎まとめてみると、法人格を混ぜるかどうかで債権者保護手続の強制性が変わるわけですね。
債権者保護手続の個別催告の省略可能性
◆◆うん。ちなみに、もう一つ言っておくと、債権者保護手続って個別催告が原則なんだよね。
◎個別催告ということは、知れたる債権者に個別通知しなければならないということですよね。
◆◆そう。
◎でも、普通は官報公告に加えて電子公告や日刊新聞に載せることで免除されますよね?
◆◆そうだよ。会社法789条3項や799条3項だね。
会社法789条3項
前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(吸収分割をする場合における不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。会社法799条3項
前項の規定にかかわらず、存続株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。
◆◆実は、時々あるんだけど、親会社が完全子会社を吸収合併する場合で、完全子会社の公告方法が官報のみになっていることがあるんだよね。
◎それだとまずいんですか?
◆◆個別催告の省略は官報以外の公告手段が定款に記載されている必要があるんだ。
◎なるほど、たしかに条文を見ると「定款の定めに従い」とありますね。
◆◆そうなんだ。定款に官報以外の方法を定めていない場合に個別催告を省略する方法はないから気をつけないとね。
◎もし、そういう会社があったらどうするんですか?
◆◆まずは定款変更をするんだよ。
◎なるほど、定款変更して公告手段を変更した後に合併手続に入るわけですね。
◆◆ちなみに、定款変更の効力が発生して、はじめて債権者保護手続の期間のカウントが始まることには留意してね。
◎わかりました。
(次回に続きます)