株式譲渡案件の売手のFAはどんな仕事をしているのか?(後編)

M&A講座
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前回の記事に引き続き、株式譲渡案件の売手FAのスコープを確認していきましょう。

(前回の記事)

株式譲渡案件の売手のFAはどんな仕事をしているのか?(前編)
以前、別の記事で株式譲渡のプロセスの概略をひととおり見てみました。(参考記事)今回は、FAの仕事の切り口で、改めて株式譲渡案件を見て行きたいと思います。具体的に、売手のFAのスコープ(仕事の範囲)は次のような感じだと思います。 買手候補発掘...
  1. 買手候補発掘
  2. 売却プロセス全体のコーディネート
  3. 売却方針・ストラクチャーに関するアドバイス
  4. インフォメモ、プロセスレター等の入札プロセス上必要な書面の作成
  5. DDの運営管理のサポート
  6. 各種契約書等のドキュメンテーションに関するアドバイス
  7. 交渉に関するアドバイス
  8. その他案件に関する全般サポート(IR・適時開示、取引所対応、法規制対応)

FAのScope of Work(売手編・・・続き)

5.DDの運営管理のサポート

売却プロセスの進捗に応じて適切に捌く

売却プロセスが進んで、DDフェーズになった際に、何社の買手候補を残すのかとか、どの買手候補を最優先でDDに招待するのかについてアドバイスをします。

また、データルームの設営方法をVirtual Data Roomとするのか、会議室に資料を持ち込んで物理的なデータルームを設営するのかについても論点を整理します。

DD実施要項を作って、Q&Aの実施も含めた詳細なDDのルールを策定することになります。

DDの進捗管理はジュニアの仕事

データルームの常駐(VDRの場合は整備)、インタビューセッションの司会、そしてQ&Aシートの送受信管理については、ジュニアの大きな仕事のひとつです。

ぱっと見ではDDの進捗管理は半ば雑用みたいな側面もありますが、たとえばQ&Aシートの質問内容までしっかりとおさえてコントロールしようとすると結構頭を使います。

単なるメッセンジャーボーイに成り下がらず、その後の交渉フェーズを見据えたDDの進捗管理をすることでクライアントの満足度も高まるわけです。

(良いジュニアがDDの進捗管理をすると、適切にアラートも出してくれるので、本当にやりやすいです)

6.各種契約書等のドキュメンテーションに関するアドバイス

基本合意書や最終契約書等のドキュメンテーションについて、弁護士と協働しながらサポートすることになります。

もちろん、最終的には弁護士の先生方がメインでサポートされるんだけど、FAとしても案件の性質等を鑑みてどこに着地させるのが良さそうかという面でサポートするよね。

また、弁護士の先生に全部をやってもらうと時間制のメーターが回りすぎるので、初期的な論点はクライアントとFAとで整理して、それを弁護士の先生にチェックしていただくという進め方を採る場合もあります。

他にも、株式譲渡契約書の作成に不慣れなクライアントの場合には弁護士の先生方が使う専門用語や先生方が説明するポイントを、よりかみ砕いて分かりやすく翻訳して理解していただけるように努めることもあります。

7.交渉に関するアドバイス

交渉を広義でとらえると・・・

交渉は狭義では、ドキュメンテーションとセットでサポートするということになるのかと思いますが、広義でとらえると、売手と買手候補とが協議して決めていくあらゆる段階のやり取りが交渉だと言えなくもないです。

売手のFAの場合、最終的に売手であるクライアントがより有利な条件で対象会社を売却できるようにするための環境を整えることになりますので、複数の買手候補と並行して協議・交渉し、より良い条件を提示してもらえるように尽力することになります。

FA同士の前捌き

売手と買手候補とで金額や条件が離れている場合にFA同士である程度間を詰めておくための交渉をしたりもします。

クライアントであるプリンシパルが居ない場の方がFA同士で、ある程度ざっくばらんに話ができてうまくまとまるケースもあります(この辺は、お互い空気の読めるFAだと苦労しませんが、そうでないと喧々諤々の交渉をすることになります)。

なお、当然ですが、FA同士の前捌きといっても、クライアントから許容されている範囲内での協議・交渉しかできない点は留意しておいていただきたいと思います(要は、FAとして勝手に決めてはいけないということ)。

8.その他案件に関する全般サポート(IR・適時開示、取引所対応、法規制対応)

その他、売手のFAは、その売却プロセスに関連することである限り、何でもサポートしますということになります。

上場会社であれば、東証への適時開示や臨時報告書提出等が必要になることもありますし、独禁法対応についても、本来的には買手が主に対応すべき内容ではあるものの、売手としても資料提供等が必要になり、弁護士の先生と協同しながらサポートもすることもあります。

ということで、案件に関しての「よろず相談」を受けることになるわけです。

さいごに

売手のFAは買手候補のFAと比べて、作業系の仕事が多くなるため、一見頭を使う場面場少なそうに見えるかもしれません。

しかしながら、売手が最良の条件で対象会社を売却できるように調整しようとすると、あらゆる場面で様々な要素をコントロールしていく必要があり、個人的には買手候補のFAよりも頭を使う場面は多いのではと思ったりもします。

買手候補のFAになった場合には、主に

  • いくら?(Valuation)
  • どうやって買う?(ストラクチャー)
  • どんな条件で買う?(最終契約書)

という辺りを考えておけば良いのですが、売手のFAの場合にはもっと広範囲に考えるべき内容がちりばめられているという印象です。

(買手候補のFAの仕事に続きます)

もう一方の、株式譲渡案件の買手候補のFAはどんな仕事をしているのか?(前編)
前回まで株式譲渡案件の売手のFAの仕事を見てみました。(参考記事)ここからは、逆サイドの買手候補のFAになった場合の仕事について確認していきたいと思います。買手候補のFAのスコープ(仕事の範囲)は次のようなものかと思います。 対象会社の初期...
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