週刊M&Aバンカー第53号:親会社株式は連結にて全額を自己株式に振り替えれば良いのか?

週刊M&Aバンカー
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夜と霧の著者ヴィクトール・フランクル氏は、ひとは生きる意味を問うべきではなく、むしろ生きる意味を問われる主体こそがわれわれ人間であると考えるようです。

われわれは人生に何を期待できるかが問題なのではなく、むしろ人生がわれわれから何を期待しているかが問題である。われわれはそのことを学ばねばならず、また絶望している人間に教えなければならない。

人生はわれわれに刻々と問いかける。われわれはその問いに詮索や口先ではなくて、正しい行為によって応答しなければならない。

個人的には地に足をつけ一歩ずつでも進んでいくことが大事だと思いますし、別の言い方をするなら「真摯に踊れ」ってことなのかもしれません。

さて、今週は、

【M&A講座】親会社株式は連結にて全額を自己株式に振り替えれば良いのか?

です。

親会社株式は原則として取得禁止ですが、例外的に保有することになってしまった場合には相当期間内に処分しなければなりません。とはいえ、諸事情からすぐに処理できずに決算日を迎えてしまうこともあろうかと思いますが、その場合にどのような会計処理をすれば良いのでしょうか。

(いつもの先輩・後輩の対話でみていきます。文頭のマークが◆◆→先輩、◎→後輩 です。)

【M&A講座】親会社株式は連結にて全額を自己株式に振り替えれば良いのか?

事業の合弁化のアドバイスをする後輩であるが

◎先輩、こんにちは。いまクライアントの子会社の事業の合弁(JV)化の検討をしているんですけどね。

◆◆他社が保有する類似事業と合弁にするんだ?

◎ええ。そんな感じです。事業についてはFAとして口出しするところはないのですけれども、その相手先が保有する事業体、今回の案件では相手先の子会社がうちのクライアントの株式を所有しているんです。

◆◆そうなんだ?ちなみに、その合弁会社のマジョリティはうちのクライアントが持つことになるの?

◎その予定でして、60:40の比率で持ち合う予定なんです。

◆◆なるほど、要はこのままだと親会社株式が発生してしまうのだね?

◎その通りです。

親会社株式の基本

◎以前、親会社株式の基本は学んだので覚えてはいるんです。共益権はないけど、自益権はあるって感じでしたよね?

(参考記事)

親会社株式の共益権と自益権 〜親会社から配当はもらえるのか?〜
今日は、親会社株式について考えていきます。 M&Aアドバイザリー業務の文脈で考えますと、主に、株式交換・株式移転で相手方の株式を持っていた場合に親会社株式が発生するケースが想定されるでしょうか。 株式交換・株式移転の案件では、自己株式は事前...

◆◆そうだね。議決権はないけども、配当はもらえるよね。いずれにせよ相当期間内の処分が求められるわけではあるけれども。

親会社株式の連結上の会計処理

◎ええ。それで、親会社株式を連結上どのように会計処理すれば良いのかってことをクライアントから聞かれておりまして。

◆◆「それは監査法人に聞いてください」と逃げるのも手だけども、一般論のスタンスでしっかりと回答しておくのもFAとしての付加価値かもね。

◎そう思ってます。それで、親会社連結においてはそれって自己株式ですから、単純に全額を自己株式に振り替えればよいのではと考えたのですが、いまいち自信がないのですよね。

◆◆疑問点はわかったよ。数値例を示しながら考えてみようか。

【前提】

P社(クライアント)がその60%を所有する合弁事業体(JV)は、P社株式を80だけBS計上している。

【P社連結BS(JV取込後)】
諸資産 XXX 株主資本 YYY
P社株式 80 非支配株主持分 ZZZ

◆◆この例で、P社株式を正しく連結処理するにはどうすれば良いと思う?

◎連結上ではP社=親会社→自己株式となるのですよね? 次の仕訳になると思うわけですが。

【誤った連結仕訳】
自己株式 80 P社株式 80

◆◆結論から述べればその仕訳は誤りだね。

◎うーむ、、、。

全部連結という会計処理(Not 比例連結)

PLでは

◆◆連結の原則に立ち返るけど、子会社のPLやBSは親会社がその「全額」を取り込むよね?

◎それはそうですね。60%子会社であっても、その子会社の売上高は全額親会社のPLに計上されます。

◆◆代わりに、少数株主に帰属する部分はどのように処理するんだっけ?

◎PLの末尾あたりで「非支配株主に帰属する当期純利益」として、親会社の利益から控除するんですよね。

BSでは

◆◆そのとおり。では、BSの場合はどうかな?

◎BSも子会社の保有する全ての資産負債は全額親会社のBSに載りますね。でも、代わりに非支配株主持分として純資産の部において少数株主に帰属する部分を控除しますね。

◆◆そうだね。現行の連結制度は全部連結となっていて、支配権相当部分だけを比例的に取り込む”比例連結”にはなっていないんだ。

◎全部連結・比例連結っていう言葉は初耳ですけれどもおっしゃっている内容はわかります。

◆◆それで、先ほどの親会社株式のはなしに戻ってみると、君の会計処理では、JVは60%子会社なのにもかかわらず、その保有資産たるP社株式が全額が親会社持分(株主資本)から”控除”されてしまっていることになっているよね?

◎たしかに、、、では、少数株主にも比例的に負担させればいいわけですか?こんな感じで。

【あるべき連結仕訳:親会社株式の自己株式と非支配株主持分への振替】
自己株式 48 P社株式 80
非支配株主持分 32

◆◆そのとおりだよ。この論点は、企業会計基準委員会(ASBJ)「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第15項」に載っているから、覚えておくといいよ。

さいごに

親会社株式を持つ主体が100%子会社ではない、というケースはそんなにないのかもしれませんが、合弁をやりましょうというケースでは有り得るかもしれません。

マイナーな論点ですが、頭の片隅で覚えておいていただければ幸いです。

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