GWが過ぎたらもう梅雨入りの地方も出始めるとは季節の移り変わりがだいぶ早くなっている印象です。
さて、今週は、
です。
【M&A講座】Valuationモデルをスクラッチから作ったことがありますか?
今回のポイント
多くのM&Aアドバイザリーファームは組織としてノウハウが集積されており、エクセル(Valuationモデル等)やパワポのフォーマットが完備されていることと思います。
新卒・中途を問わず、入社直後の方でも標準フォームと過去の資料があれば、見様見真似でそれっぽい資料・モデルが作れるはずです。
業務を効率的に進め、不用意なミスを防ぐ観点ではフォームの標準化はメリットしかないように思えます。
ただし、個人の能力向上という観点ではそれに頼りっきりになることは必ずしも良い側面だけではないのかもしれません。
ダニング=クルーガー効果
学びたての初心者が陥りやすいこと
各社がM&Aアドバイザリーファームとして用意しているDCF法のエクセルモデルに過年度の決算情報と事業計画の数値を入力すれば、式の意味を厳密に理解できていなくても1株あたり価値まで算出できると思います。
そのような作業を複数回繰り返すと、
という勘違いをされる方もいるかもしれません。
(そこまで単純じゃなくても、自分は意外とイケてると思ったりする方は案外多いのではないでしょうか)
何かを学びはじめたばかりの初心者が自分の実力を勘違いして過度に自信を持つ現象のことを「ダニング=クルーガー効果(Wikipedia)」というようです。
ダニング=クルーガー効果とは
ダニング=クルーガー効果を簡単に理解していただくためには、次のような図を見ていただくのが良いかと思います。
(出所はこちら)
要点を述べれば、
- 何かを学びはじめた頃は、それに対して根拠なき自信を持つ(優越の錯覚)
- ただし、それは根拠も裏付けもないので、学びを進めると徐々にそのウソの自信をもっていた自分の恥ずかしさに気づき謙虚になっていく(・・・あれは黒歴史だ的な感覚・・・)
- 継続して学び続けることで、いつしか本当の実力に裏付けされた自信がついてくる
という感じでしょうか。
ゼロからモデルを作ってみよう
下手糞の上級者への道のりは己が下手さを知りて一歩目
人間の傾向として優越の錯覚に陥りやすいのは仕方ないとして、そこから早く脱却するためにできることがあるとすれば、「できない自分を自己認識すること」だと思います。
Valuationに関していえば、ゼロから(スクラッチから)エクセルモデルを自分で作ってみることで、
「あれ、NOPLATからFCFを導出する際の各要素の符号、どっちがプラスだっけ?」
とか
「永久還元の式ってなんで(1+r)が分子にいるんだっけ?」
といった具合にわからないことが明確になり、自分の能力の現状認識ができるかもしれません。
ゼロから作る際の具体的なステップ
- まっさらなエクセルを立ち上げる
- 他に何の資料も見ないでDCF法の1株あたり価値を算出するシートを作成する
- 過年度と事業計画の数値は適当に入力する
- どんな数式を入れれば良いかわからないところも自分なりに考えてとりあえずの式を入れておく(ただし、自信がないところはセルの色を塗るなりして後でチェックする際にわかるようにしておく)
- ひととおり作成して1株あたり価値まで算出できたら、会社の標準モデルに同様の過年度と事業計画の数値を入力して1株あたり価値まで算出する
- ほとんどのケースで両シート間の1株あたり価値がズレていると思われるので、ズレの要因となっている箇所を売上高から順番にセルを1つずつ見ていく(たとえば、X1年度のNOPLATまでは合ってるなとか、X5年度のFCFまでは合っているなとか、”1株あたり価値から遠いセル”から確認していく)
- セルの数式を誤っていた箇所は、自分の式と模範解答の何が違うのか、どこを勘違いしていたのかを正しく理解する
- これらを繰り返して、自分がゼロから作ったシートと会社のフォームとの1株あたり価値が1円違わず一致するまで検証する
留意点
最終的には財務三表(PL、BS、CF)を含めてモデリングできるようになるべきであはりますが、当面は単に1株あたり価値の算出ができるようになることを目標にしても構わないでしょう。イメージとしては、
- レベル1:1株あたり価値の算出シート(いわゆるDCFシート)を自力で作成できるようになる
- レベル2:財務三表と連動させて1株あたり価値まで自力で算出できるようになる
- レベル3:複数の事業計画シナリオを分析できるように工夫して財務三表&DCFシートを連動させる
といった段階でレベルアップしていけば良いかと思います。
さいごに
スクラッチから資料を作るというのは、一見時間の無駄のように思えますが、そこを丁寧にやっておかないといつまでも「付け焼き刃」的な能力のまま伸び悩むことになりかねません。
DCF法のシートに限らず、類似会社比較法のシートやパワーポイントの資料も含めて、時間を見つけてゼロから自分で作ってみるというのを一度はやっておいた方がいいでしょう。