先週までよりは気温も高くない日が続きようやく秋らしさが芽生えてきたように感じます。
さて、今週の週刊M&Aバンカー(第7号)は、
- 【M&A講座】M&A関連支出(FA・専門家コスト)の会計・税務処理
- 【M&Aとキャリア】志望動機のモデルを教えて欲しいという質問について
の2本立てです。
M&A関連支出(FA・専門家コスト)の会計・税務処理
クライアントにおけるM&Aの検討会議に参加している際に、
という質問をされることがあります。
私ども、FAの手数料は報酬総額では相応に高額となるケースもありますので、その金額的重要性を鑑み、会計・税務処理を自ら一般論として語れる必要はありそうです。
今回はJ-GAAPでの会計処理を前提に話を進めます。
大前提:会計・税務処理は最終的には監査法人(会計士)・税理士等の専門家に確認してください
まず、大前提ですがFAは会計の専門家ではありませんし、税務の専門家でもありません。これらの専門的なアドバイアスを正式にはできないという枠組みを維持しておく必要があります。
すなわち、説明の枕詞として、
といった感じの内容を述べてから説明する必要があります。
こういった免責的物言いをしたとしても、その説明内容には万全を期す必要がありますから、内容を適当に話しても良いということにならないのはもちろんであります。
とはいえ、まどろっこしいかもしれませんが、助言業務に関与するのであればこういった前提・立場を明らかにしてから話を切り出すのは大事なことだと思っています。
M&A関連支出(FA・専門家コスト)の会計・税務処理まとめ
まずは結論をどうぞ
前置きが長くなりましたが、M&A関連支出(FA・専門家コスト)の処理は、
- 会計(連結と単体で根拠となる会計基準が異なることに留意)
- 連結:企業結合会計基準等に基づいて費用処理
- 単体:金融商品会計基準等に基づいて取得原価算入(資産計上)処理
- 税務:原則として資産計上となるが案件の初期段階のものは損金計上もあり得る
という具合に、結論をまとめられます。
会計処理の考え方
会計処理は連結と単体で異なる会計基準に従うということなります。
連結は支出期の費用となります(その分だけ株式の取得原価が低廉になるため、連結のれんは資産計上していたかつての処理よりも低額になるといえます)。
他方で単体は従来通りの会計処理がなされるといえます。
- 単体の会計処理
- 親会社側
- 契約が成立:資産計上(株式の取得に係る付随費用として子会社株式の取得原価に含める)
- 契約が不成立:費用処理
- 対象者側・子会社側:費用処理
- 親会社側
関連規定の抜粋
【企業会計基準第 21 号 企業結合に関する会計基準】
取得関連費用の会計処理
26. 取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、発生した事業年度の費用として処理する。94. ・・・(一部省略)・・・なお、個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、金融商品会計基準及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」 に従って算定することに留意する。
【金融商品会計に関する実務指針】
付随費用の取扱い
56. 金融資産(デリバティブを除く。)の取得時における付随費用(支払手数料等)は、 取得した金融資産の取得価額に含める。ただし、経常的に発生する費用で、個々の金融 資産との対応関係が明確でない付随費用は、取得価額に含めないことができる。期末又は保有目的区分を変更する時点で保有している金融資産を時価評価する場合、 その時価には取得又は売却に要する付随費用を含めない。
税務処理の考え方
法人税法施行令111条1項1号において、株式取得の付随費用は取得価額に算入とされています。
ただし、通信費と名義書換料は金額が少額であることから、取得価額に含めないことができるとされています(法人税法基本通達2-3-5)
まず、M&A関連支出(FA・専門家コスト)が「付随費用」に該当するかどうかが論点となりそうですが、実務上はM&Aの意思決定タイミングとの関係が考慮されるようです。
すなわち、
- M&Aの意思決定を行う前の段階(どの相手先をM&A対象とするか検討する段階)
- 株式を購入するかどうかの意思決定を判断するための費用(M&Aのために直接要した費用とは言い切れない場合が多い)として損金処理
- M&Aの意思決定後(M&Aの対象先が明確になった後)
- M&Aを前提として発生する費用であり、直接的な関連性が高いとして「付随費用」と扱われ取得価額に含める処理
というケースにわけて考えられるようです。
(参考として、E&Yの記事をあげておきます)
関連規定の抜粋
【法人税法施行令】
(有価証券の取得価額)
第百十九条 内国法人が有価証券の取得をした場合には、その取得価額は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 購入した有価証券(法第六十一条の四第三項(有価証券の空売り等に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)又は第六十一条の五第三項(デリバティブ取引に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)の規定の適用があるものを除く。) その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
【M&Aとキャリア】志望動機のモデルを教えて欲しいという質問について
FAに必須な資質はあるか
FAの仕事はチームワークであるため、”知識や技能として”何か特定の資質が必須だということはないと個人的には思う。
もちろん、一定程度のFAとしての知見をもっていることは最低限であるとして、それを超えたところの応用的な知識や技能がなければ致命的かといわれるとそうでもないのではと思う。個人的な経験では、知識や技能はチームワークでそれなりに補えると感じている。
たとえば、雄弁で交渉上手な人物が必ずしも最善のアドバイザーになれるわけではない。
おそらくは、クライアントとの相性、チームメンバーの総合力、この辺りがうまくハマればよりより関係性のもとで仕事ができるのではないだろうか。
とはいえ、知識や技能を超えた何かについては、もしかしたら一定の資質が必要なのではないかと感じることも多い。
志望動機のモデルを教えて欲しいという質問
ところで、(最近はだいぶ減ったが)若い転職希望者の方と会話すると、
という趣旨の質問をされることがある。
個人的にはそのような質問に対する回答の中身としての絶対的な答えはないと思っているので、基本的にはうまくかわして答えないようにしている(そもそも、質問者のことをそんなに知っているわけではないため、その経験を踏まえた志望動機を作り上げることは困難であるし)。
ただし、回答の中身ではなくてその質問に対する姿勢、メタ的な話という意味ではいろいろと思うところがある(そういえば、以前、面接対策と称しての連載をしてみたこともありましたね)。
改めて一番大事なのはなんだろうかと考えた時に、たぶん、
ということに尽きるように感じる。
信念・強さの裏打ち・逃げずに対峙すること
FAの仕事はクライアントからの質問対応や相手方FAとの交渉において、適時的な対応が求められる。そんな時に付け焼き刃の知識、自分の本意ではない心持ちでの対応を試みれば、たいていの場合で火傷をするし、場合によってはそれが大問題に発展するときもある。
ゆえに、わからないことはわからない、できないことはできないと言い切れる強さが必要だと常に感じている。また、代替案として、何ならいつまでにできるのかを示すことも併せて重要であることはもちろんである。仮に苦言を呈されようとも、できないことはコミットしてはいけないのである。
言葉の裏にある信念というか、強さの裏打ちが感じられるかどうかというのがとても大事だ。
いまここで対峙している人と逃げずに膝詰めで向き合って議論を昇華していくことができるか、今使える武器は素の自分が持っている経験知しかないのだから、それをもってその場で、自分の判断で対応していけるだけの図太さというか強さが求められる。
おそらくは、面接というのも、そういう片鱗が見えるかどうかを確認している機会だと思っている。なので、以前の記事でも書いたとおり、言っている内容そのものはある程度筋が通っていればなんでもよくて、その発言しているその人自身のあり方を確認しているということなんだと思う。
では、どうしたらそうなれるのかということなんだが、多分、それはどれだけその人自身が第一次的現実の中で考え、踠いてきたか次第なんだろうと感じるところである。
さいごに
今週はこのサイトの見た目をちょっとだけ変えてみました。ヘッダー部分とサイドバーの野暮ったさが少し改善されたかなと思っています。
サイトの設定とかは、M&Aとは全く分野の違う知識が必要なのですが、それはそれで普段とは違う頭の使い方をするので気分転換にちょうどいいかなと感じています。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!