テクニカル上場の解説 〜株式移転による経営統合ではテクニカル上場は必須!〜

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今回の記事ではM&Aの経営統合案件で時々話題になる「テクニカル上場」について確認していきたいと思います。

なお、参考文献として、東証のホームページにある次の資料をベースにまとめておりますので、あわせて資料もご覧ください。

上場管理業務について -テクニカル上場の解説-(日本取引所自主規制法人 上場管理部)

本記事では、上記資料を「東証解説資料」と呼びます。

テクニカル上場の解説

テクニカル上場を必要とするケース

まず、そもそもテクニカル上場の制度がなぜ必要なのでしょうか。

たとえば、上場会社同士の経営統合の手法として、共同株式移転を選択したとします。

この場合、株式移転当事者の上場会社は新設の持株会社の完全子会社になって上場廃止となってしまいます。なので、何らかの手当をしないと上場会社の株主が保有する株式が非上場化されてしまい流動性に問題が生じます。このような問題を避けるために、共同株式移転によって新設される持株会社の上場が簡便に(スムーズに)できるように準備されている制度が「テクニカル上場」であるというイメージを持っていただければ概ね正しいでしょう。

実際にはテクニカル上場が用いられるケースは株式移転も含めると次の3つがあります。

  • 上場会社が関与する株式移転(共同株式移転)のケース
  • 上場会社が非上場会社に吸収合併されて消滅するケース
  • 上場会社が非上場会社に株式交換によって完全子会社化されるケース

なお、一般的には非上場会社が関与する合併や株式交換の場合には上場会社を合併存続会社や株式交換完全親会社とするため、

テクニカル上場が話題になるのは株式移転のケースであると覚えていても実務上はほとんど差し支えない

と考えています。

以上をまとめてみると、

テクニカル上場とは、上場会社が何らかの組織再編行為によって上場廃止となってしまう際に、特例的に通常の上場審査とは異なる簡易な審査を受ければ、組織再編後の企業集団としての上場維持を可能にする制度

といえるかと思います。

テクニカル上場のスケジュールと手続

共同株式移転を想定した場合のテクニカル上場のポイントは

  • 東証への事前相談(タイミング、どの部署宛か)
  • 提出書類
  • 審査項目
  • 審査の手数料

といった点があります。順を追ってみていきましょう。

東証への事前相談(タイミングと部署)

一般的に、合併や株式交換等のテクニカル上場を用いない組織再編事例であっても、上場部に対する事前相談が必要です。通常は公表日の10日前までに行うとなっていますが、実務上は余裕をみて、相応に前もって相談をしているケースの方が多いと思います。

テクニカル上場の場合には、

  • 上場部
  • 上場管理部

の双方に事前相談をする必要がありますが、通常1回の面談で双方とも出席されることになるかと思います(上場管理部宛の事前相談はテクニカル上場日の4ヶ月前までに行う)。

提出書類(新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)に注意)

まずはスケジュールに関して3つのイベントの定義を確認してみます。

  • 上場申請日(上場日の2ヶ月前の日)
  • 上場承認日(上場日の1ヶ月前の日)
  • 上場日

これらのイベントの日程をふまえて、提出書類を挙げてみると、

  • I 上場申請日に提出する書類
  • II 上場申請日から上場承認日までに提出する書類
  • III 上場承認日から上場日前日までに提出する書類
  • IV 上場日に提出する書類

の4種類にわかれます。

詳細は、東証解説資料をご覧いただくとわかると思いますが、形式的な書類をはじめとして、規定類、株主総会議事録関連、新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)とその適正性に関する確認書、コーポレート・ガバナンスに関する報告書、登記関連書類、定款等幅広い書類が要求されます。

とはいえ、一般的にはすでに会社に存在している文書を準備することになろうかと思いますので、次に挙げる「新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」以外はあまりたいしたことはないかもしれません。

新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)

新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)とは、内容は有価証券報告書に近しいものです。

なので上場会社同士の組織再編ならば問題ないのですが、テクニカル上場の当事者として、非上場会社が含まれる場合には留意が必要となります。

すなわち、当該非上場会社について最近2年間に終了する各事業年度及び各連結会計年度の財務諸表等に係る監査報告書を添付し、併せて直前事業年度と直前連結会計年度の財務諸表等に係る監査概要書を提出する必要があります(東証解説資料 P.22-23)。

非上場会社であっても、大会社の場合には会社法上の会計監査を受けていると思いますが、ここで要求されているのは、金商法の監査報告書なのです。

実は、監査法人による監査には、根拠法令の違いで、

  • 会社法:計算書類等に対する監査
  • 金商法:財務諸表等に関する監査

の2種類に分かれます。

テクニカル上場の申請書類としては、金商法の監査報告書が要求されるわけですが、そもそも非上場会社の場合、金商法の財務諸表の作成から始めなければならないケースがほとんどとなろうかと思います。

ゆえに、実務的には、ゼロから有価証券報告書を作成する場合と同程度の負荷と時間がかかることになります。

この辺りを考慮してスケジュールを策定しないと、経営統合の期日を含めてすべてが後ろ倒しになってしまうケースもあるので注意が必要です。

審査項目

テクニカル上場の審査項目は、東証1部又は2部に新規に上場する際の上場基準とは異なっています。

詳細な基準は東証解説資料のP.10をご覧いただくとして、テクニカル上場審査基準のほうが新規上場よりもゆるいものとなっております。

これは、テクニカル上場審査基準と整合しているのは、新規上場基準ではなく、上場廃止基準の方だからと理解していただければ概ね正しいかと思います。

すなわち、会社によっては一旦新規上場の審査を経て上場しても、その後の経営環境の変化で新規上場の審査基準を下回ってしまうことはあります(但し上場廃止基準は下回らない程度に)。

なので、新規上場基準を下回ってしまっている会社が、テクニカル上場を使った場合に問題なく上場維持できるように配慮されているのだと思われます。

審査の手数料

テクニカル上場そのものの手数料水準はそこまで高くはないと思います(東証解説資料のP.15に記載されております)。次の2つの合算となります。

  • 本則市場への上場の場合上場審査料:200万円
  • 新規上場料:最大1,000万円(新規上場会社の上場時価総額から上場廃止となった株券の最大の時価総額を控除した額に万分の2を乗じて算出)

ただし、テクニカル上場のための書類準備(非上場会社が含まれる場合は特に負荷が高い)や、弁護士等専門家に対する報酬も含めると、テクニカル上場全体の負荷は相当なものになる点には留意が必要です。

さいごに

テクニカル上場に関連する話題として、裏口上場防止策の、いわゆる

不適当な合併等

という概念があります。

これは、上場会社が非上場会社と経営統合(組織再編)をする場合に、その実態が非上場会社になるようなケースを

として規定し、その基準に該当してしまった場合には、上場廃止の猶予期間入りとなってしまうという制度です。

そして、上場廃止の猶予期間中(通常3年以内)に新規上場審査に準じた審査(要は、実質的にIPOの審査)をクリアしないと上場廃止になってしまうというものです。

テクニカル上場とは別の概念ですが、案件中で同時に登場することもあるので、それぞれしっかりとおさえておくと良いと思います。

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