今日は、親会社株式について考えていきます。
M&Aアドバイザリー業務の文脈で考えますと、主に、株式交換・株式移転で相手方の株式を持っていた場合に親会社株式が発生するケースが想定されるでしょうか。
株式交換・株式移転の案件では、自己株式は事前に消却するので自己株式に親会社株式が割り当てられることはほぼないと思いますが、相手方の株式は他社株であり消せないので、どうしてもそれが親会社株式になってしまうわけです。
親会社株式について学ぶ
1.会社法の規定
会社法上、子会社は親会社株式を原則として保有してはなりません(会社法第135条第1項、第976条10号)。
この考え方の背景には、子会社による親会社株式の取得に制限をかけないと、自己株式の取得と同様の弊害(会社財産の流出、株主の売却機会の不平等等)が生じる可能性があるというものです。
自己株式の取得は配当可能利益の枠内であれば取得ができるようになっていますが、親会社株式は原則禁止であり、例外的に次のようなケースでのみ取得ができるという立て付けになっています。
- 他の会社から、全部事業を譲り受ける又は合併や会社分割により引き継ぐ場合
- いわゆる三角株式交換のため親会社株式を対価とするための事前取得
例外的に子会社が親会社株式を取得した場合には、その親会社株式を相当の時期に処分しなければなりません(会社法第135条3項)。
【参考条文(親会社株式の取得の禁止)】
会社法 第百三十五条 子会社は、その親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合
二 合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合
三 吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
四 新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める場合
3 子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない。
2.取得してしまった親会社株式の自益権と共益権について
株主の権利としては、共益権と自益権にわかれますが、例外的に取得してしまった親会社株式についてはどうなるのでしょうか。
まず、共益権と自益権とはなにかということですが、
- 共益権 → 議決権等
- 自益権 → 配当受領の権利等
というイメージをもっていただければ概ね正しいと思います。
(1)共益権について
原則として、議決権をはじめとする共益権については、自己株式と同様に親会社株式も制限されています(会社法第308条第1項及び第2項、等)。
なお、自己株式以外にも、相手方から議決権の1/4以上持たれた場合には相手方への議決権が停止します。ゆえに、子会社が保有する親会社の議決権はないわけです。
【参考条文(議決権の数)】
会社法 第三百八条 株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。
2 前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。
(2)自益権について
一方で、自益権はどうでしょうか。
親子関係にあるとはいえ、親会社と子会社は別々の法人です。
さらに、親会社株式を所有している子会社には、親会社以外の株主が存在する可能性だって十分にあり得ますし、子会社の債権者も存在しているはずです。
それら親会社以外のステークホルダーを経済的に保護するためにも、配当受領の権利は必要であろうとの観点から、親会社株式は配当受領の権利はあると解されています。
さいごに
そうは言っても、相当の期間に処分することを求められているため、
- 親会社への譲渡
- 親会社への現物配当
- 連結グループ外部への売却
等の手法で早期に処分する必要があろうかと思います。
ちなみに、親会社が子会社から自己株式として取得することについては、株主総会の決議は不要で、取締役会の決議で可能です(会社法163条)。